
調理科学や食文化を専門とするが、
同時に江戸時代の料理や江戸の食関係の書物などの研究家でもある。
以前から手がけおられた「幕末京都町人のくらしと食」の一部を
『国文学 解釈と鑑賞』という雑誌の別冊、
『文学に描かれた 日本の「食」のすがた』
(2008年10月1日発行 至文堂・しぶんどう)の中に発表された。

京都の呉服商人 水口屋清兵衛(本姓 八木清兵衛)と、
その先代とが、天保9年から明治9年までの38年間
書き続けた日記のかなりの部分が、
個人によって所蔵されているという。
それを島崎先生が研究対象としているのだが、
もちろん、食生活を中心に、清兵衛の余暇活動などを追っている。

日記には、日々の食事、行事の食事などが細かく記録してある。
たとえば、「安政4年9月15日 日和 折々雨ふり」の日の昼食は、
棒鱈 太平皿 はも 柿
せんまい ゆりね
玉甚殿より 鱧ずし少々
カステイラ持参被相成り
といったぐあいである。
「野菜が足りない」なんて、ここでは野暮はいわず、
38歳の家長が、使用人、近所つき合い、日々の食事のメニューなどに
いかに細かく気を配っていたかに着目したい。

『日本の「食」のすがた』には、ほかにも興味ある記事が
たくさん載っている。
なかでも、「座談会 食と文学」は、
栄養士などが食の話を活性化するのに役立つネタの宝庫である。
平安時代、すでに自然は少し遠くになってきた、
そこで屏風絵や庭、和菓子などへと「縮小され、芸術化され、
記号化されて、四季の文化が生み出された」という。

食事相談にそんな蘊蓄(うんちく)は必要ないだろうが、
食のバックグランドをこのくらいのスケールで見たいし、
語ってみたい。
「バナナダイエットって、効果あるんですか」
なんていう質問に即答しないで、
「バナナの産地の人、台湾人やフィリピン人は
どんなダイエットをしているのかしら?」なんて、
少しフェイントをかけてみる余裕と視野がほしくなる。
# by rocky-road | 2008-10-07 22:47