
大半が浴衣姿の栄養士が、
「日本が世界的長寿国である理由」について
1日かけて、語り合った事例は、
地球の現在・過去、未来の歴史において皆無であろう。
こういうイベントを開くこと、開いたことも
日本が、世界のトップクラスの長寿国であり続ける
理由の1つになりそうだ。

2022年8月7日(日)10時30分~17時30分に行なった
「食ジム」の第112回のご報告。
テーマは
「日本が、世界的長寿国である理由を
栄養士として、どのように理解し、
その知識をどう生かしてゆけばよいか」
(開催地/横浜にある神奈川近代文学館)
座長:米澤 須美さん
アドバイザー:影山 なお子さん、大橋
(詳細は、パルマローザのホームページ「結果報告レポート」にも)
「活動結果レポート」パルマローザ 影山なお子 (palmarosa.jp)

健康長寿は、
1つ2つの学問分野だけの研究で促進できるものではなく、
まさに「学際的」なアプローチが必要になる。
そのことが広く認識され、
近年、これに関する学会などが次々に生まれている。
「公益財団 長寿科学振興財団」(1989年設立)
「財団法人 世界健康長寿学会」(2014年発足)
などはその一例。
このほか、歯科など、医療分野別の学会や組織もある。

まだまだ、いくつもの組織が存在するだろうが、
だからといって、
健康長寿に関する栄養士に課せられている社会的使命は
少しも存在価値を小さくするものではない。
栄養士は、「日常茶飯事」など、生活習慣の現場から
健康長寿を促進するという、まさに最前線を担いうる。

むしろ、あまたの学会に対して、
「食ジム」形式の話し合いのノウハウを
教えてあげたいくらいのものである。
それによって、どれほど人々のライフスタイルに関与できることか。
広報誌を出したりシンポジウムを開いたりすれば
この道の権威や一流っていうものでは、けっしてない。

さて、「食ジム」では、
日本が世界的な長寿国である理由について話し合った。
(こういうプロセスも、教えてあげたい!!)
少し整理してあげてみよう。

◎日本人の気質。
*マジメ(この定義、むずかしい)
*人に迷惑をかけることを強く避ける。
*きれい好き。
*強い好奇心
(世界の食材や料理を取り込む/カレー、ラーメン、ステーキ)
*自然に対する敬虔な気持ち。身のまわりに八百万の神。

◎地理的条件。
*四季があり、気候が温暖。季節の変化に応じた生活のバリエーション。
*水に恵まれ、食用植物の栽培に有利。
*水浴、風呂がいつでも、どこでも。
*海にも山にも食材豊富。(魚介類、海藻、果実、山菜、薬草)

◎国情
*外国の侵略を受けにくく、同胞意識が強くなり、
独自の文化をゆっくりつくりあげた。
*「お上」の方針によく従い、士農工商によって各層とも収入が安定的。
*識字率が高く、教育が行き届いた。
*保健・衛生政策などは海外の情報を取り入れ、普及した。

◎生活・食習慣
*入浴習慣の普及により清潔が保たれている。
*畳生活。洋室でも靴や下駄では上がらない。
*米飯を主食とする食事パターン。
「おかず」が不可欠。それによって食品のバラエティ。
米飯食で満腹感が生まれ、
おかずの極端な多食が防げる(肥満割合が低い)。
*一汁一菜~三菜など、献立のカタチにこだわり、
かつ、銘々食器を固定したため、
家族ごとに食事の質と量が保たれている。
箸は、形状・大きさの異なるどんな料理にも適応可能。
それによる料理のバリエーション。
(フォーク、ナイフは定着しなかった)
*季節ごとに料理のカタチを変え、季節の食材を食する習慣。
季節の行事の多さ。
(単調にならない生活。バランス、バリエーション感覚の向上)
*朝、昼、夕の食事時刻を守る習慣。
「朝食らしく」「夕食らしく」など「らしさ」の尊重。
*食材への感謝と大事にする習慣。「いただきます」「ごちそうさま」
*食事マナーを大事にする。
「ながら食い」「おどり箸」「残食」の禁止など。

◎精神性
*「人に迷惑をかけない」「自分勝手は許されない」など、
周囲を気づかう生活習慣は、無理や著しい偏向を抑止する。
*ていねい表現、ごあいさつ表現のバリエーション。
「おっしゃる」「申しあげる」「お暑うございます」(気候にも「お」)
「お出かけですか」「ご笑味ください」「つまらないものですが……」
*親族への気遣い。
「ご先祖様に申しわけない」「〇〇家の恥となるようなことをするな」
「親の顔に泥を塗るな」 (セルフコントロール能力)
*遠くに武士道(負けず嫌い、潔さ、公明正大=フェア、強い信念)
*コミュニティ重視(常会、村祭り、道普請=共同作業、無尽、町内会)
*人脈(同郷、クラスメイト、先輩・後輩、同期、歓迎会、
送別会、年賀状・暑中見舞い)

このようにあげていくとキリがないが、
これをどのようにエビデンス化するかである。
厳密にやろうと思ったら、
1人に対して1年間くらい密着する
フィールドワークが何例も必要になる。
同時に、海外の長寿国の事情も調べて比較検討することも必要。

食ジムでは、
思い浮かべる元気な長寿者として、このような人があげられた。
黒柳徹子(敬称略、以下同じ)、瀬戸内寂聴、三浦雄一郎、
香川 綾、アイリス・アプフェル、ドナルド・キーン、
高野悦子、森 光子、日野原重明、金さん、銀さんなど。
(冗談で大橋禄郎の名があがったが、
86歳の小物の若造の出る幕ではないと、固くカタクご辞退申しあげた)

ここであげられた方々は、
基本的にすぐれた才能を持ち、ゆえにモチベーションも高く、
さらに、周囲から引き立てられる機会が多いため、
ますますモチベーションが高くなるという
好循環を体現した方々である。

しかし、モチベーションさえ高ければよい、というものではない。
昭和の芸能人、著名人のうち、
いまからすれば短命だった人も少なくない。

知らない人も多いだろうが、
榎本健一(エノケン 65歳)、古川ロッパ(57歳)、
笠置シズ子(かさぎ/70歳)
そして、
石原裕次郎(52歳)、美空ひばり(52歳)、
手塚治虫(60歳)

この人たちの場合は、
高すぎるモチベーションのために、
過労や多食、ストレスを増大させて「戦死」してしまう。
「モチベーションに殺される」という、残念な事例である。

さて、「食ジム」の話に戻ろう。
このセッションの終わりは、
栄養士、健康支援者として、
これからの「人生100年時代」に、
どのように健康支援者をしてゆけばよいか、
それを今後とも追究し続けるということだった。

またまたいうが、
栄養、運動、休養だけでは、100年間を生きるには設定不足。
どうしても、ストレスコントロール、よい人間関係の維持、
そして生きがいの強化と持続。
医師は、主として故障したマシンの補修・修繕に追われがちだが、
稼働中のマシンの性能を持続させるのは栄養士。
そこで不可欠なのは「生きがい」の持続と強化。

ただ、この「生きがい」は正体不明。
人それぞれの「心」の中にある。
孤独を生きがいにする人もいれば、
祖国ウクライナに戻って、母国の人と共に戦うことを選ぶ人もいる。
後者の生きがいは、死ぬことを選ぶことにもなりうる。
それは特異な例として、
一般的には、日々がハッピーになること。

そのハッピーの基本中の基本は、
おいしいものを、おいしく食べること、
しっかり眠ること、
仕事にしろ、遊びにしろ、ごろ寝にしろ、
やりたいことを、そのときどきで実現すること、
これぞ、どんな生きがいにも欠かせない要素。

栄養士は、動物の基本的欲求に関与するという点で、
人の生きがいを左右する職業である。
「栄養バランス」をしきりに説いて、
とうとう世界1の長寿国になるまで、あと押しを続けてきた。
メデタシ、メデタシ。社会的使命は十二分に果たした。
お疲れさまでした。

だが、人生100年時代は、
全員が100歳になることを保証する時代というわけではない。
なんとか9万人近くが100歳になるらしいが、
まだまだこんなもんじゃない。
その先は、「栄養バランス」と、適度のモチベーション。

そこで食ジムでは、
栄養士は、からだの栄養補給に加えて、
心の栄養補給にかかわる必要がある、という結論を得た。
ほかにそういう職種があるのか。
スポーツトレーナー、エアロビトレーナー、保健師、
ヨガインストラクターなど、いくつかがあるが、
1日3度の食事に関われるのは栄養士を置いてほかにはない。

「心の栄養士」の誕生である。
「心の栄養」とはなにか。
とりあえずはモチベーションであろう。
「心の栄養」「心の栄養士」の定義にまでは
セッションは至らなかったが、
よい宿題ができた。
奇しくも、この8月28日から始まる
「モチベーションを高める言語アプローチ 3回シリーズ」で、
この問題について一定の結論を出すことができそうだ。

# by rocky-road | 2022-08-12 23:24 | 「食ジム」