脳を鍛える栄養士へ

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日本栄養士会が主催するスキルアップ研修会で
栄養士の文章力についてお話しすることになった。
影山さんとのコラボレーションで、
「もっと輝くためのコミュニケーションスキル」という
1日コースを担当する。

食コーチングは、
コミュニケーション力を基本スキルとするが、
日本を代表する栄養士会でも、
コミュニケーション力アップを目指す研修会を
主催するようになった。
そのことの意味は大きい。

脳を鍛える栄養士へ_b0141773_0585148.jpgいままでは、郵便配達方式で、
受取人が不在であっても受け取る気がなくても、
栄養・健康情報を押し込んできた、
それが従来の「栄養指導」だった。
それを反省し、見直そうということは、
これまで先人たちが培ってきた業績を
ホンキで活用できる時代がきたことを意味する。

私が担当する演題は「栄養士に必要な文章力とは」である。
事務文書とか論文とかの書き方を期待する人も多かろうが、
今回はそこへは入り込まない。
「文章で考える」という、私のコンセプトをご説明することが
まずは必要と思うからである。

以前、このブログにも書いたが、
手帳は「脳の支店」であり、
文章は、脳内の情報を取り出す主要なメディアである。

このところ、「脳科学者」を名乗る者が
マスメディアによく登場するが、
こんな怪しい学者の話を聞いていては、
文章の意味はわからない。

人は、脳を研究する学者は頭がよいと錯覚する。
じぁあ、がんの研究者はがんにならないのか、
眼科の先生は視力が落ちないのか。
脳の研究も、ウオノメの研究も、
タコ焼きの研究も、研究という点では
さほどの変わりはない。
研究者の頭の善し悪しは、
研究テーマとはあまり関係ない。

ひとくちに「脳」といっても、いまは研究分野が
何十、何百と分化しつつある。
だから、怪しい脳学者に頭がよくなる方法を聞くのは、
肛門科の先生に、ノドの不具合を診てもらうほど
見当違いのことがある。

ま、それはそれとして、
理系と思われている栄養士が、
コミュニケーション力や表現力を学ぶようになったのは、
画期的である。栄養士の社会進出の速度が、
さらにアップすることは断言できる。
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おりしも、影山 なお子さんは、
新訳となった、スタンダールの『赤と黒』を
読み始めたという。(訳者 野崎 歓 、光文社古典新訳文庫)
遠からず、食事相談に、ジュリアン ソレル(同書の主人公)や
レナール夫人(ジュリアンの恋人)が
さらっと登場する可能性が出てきた。
これが食事相談の社会性でなくて、なんであろう。

# by rocky-road | 2008-10-25 00:49  

若者と若者でない人の将来性

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非常勤講師で通っている大学の後期の講義が終わった。
「食コーディネート論」を数人の講師が担当する。
私は後期のトップバッターなので、
4回の講義と実習を終えて、早ばやとオフになった。

私の講義は、料理レシピや食関係の文章の評価の仕方、
インタビューの仕方、発想力・企画力のつけ方、
食ビジネスにおける情報発信の方法など。
どんな分野に就職しても役立つように配慮しているつもり。
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履歴書には、最終学歴として「大学」を書くことが多いが、
私は、大学は社会人の入門講座であると、
最初に学生に伝えている。
実際、大学生活にはアルバイトがあり、
社会人との交流もあって、
社会との接点が多いのが普通である。
「社会人としての第一歩」といえば、
少しは気合が入るかと思って、
そう言い続けてきたが、
さて、その効果は如何?

大学のカリキュラムは、社会の動きに対して、
どうしても遅れがちになる。
いま、社会ではどんな知識や技術、
考え方が必要とされているか、
そういうことを察知し、適応する力は、大学にはあまりない。
ただし、それゆえに、いかがわしい学説、
流行の珍説に惑わされないという利点もある。
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非常勤講師には、大学の外の動きが見えているので、
大学のカリキュラムの長短、強弱がよくわかる。
おまけに、当方は元編集者。
大学のカリキュラムは、雑誌や書籍の目次、
つまり企画、構成そのものに思える。
いま、どんなカリキュラムが求められているかを論ずる、
カリキュラム編成会議に編集者を出席させてくれたら、
専任教員の弱点を補って余りあるだろう。

もっとも、4年間の大学生活で知的生活の基礎ができる、
などと考えるほうが、ムシがよすぎるだろう。
私の持論では、「若者に将来がある」は誤り。
真実は、「努力を続ける若者、よほど運のよい若者にだけに
将来がある」ではないか。

若者ではない人には、こんなことがいえる。
「学び続ける人には、将来への可能性がある。
その意欲と思考力は、若さと美しさのベースにもなる」と……。

# by rocky-road | 2008-10-23 16:07  

使命感の風船

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非常勤で出かける大学の学生に、
「将来、就きたい職業は?」と聞くと、
「食育」「商品開発」「フードコーディネーター」が
上位にあがってくる。
この傾向は20年近く、変わっていない。

一方、フードコーディネータースクールでは、
さすがに「フードコーディネーター」は少ないが、
「食育」や「商品開発」は上位にランクインする。
そう願う人の中には栄養士も少なくない。

若い食関係者に、これらの職業の人気が続くのは、
1つには、実像がはっきりしないために、
憧れが先行し、いつまでも中空にさまようためだろう。

栄養士の世界では、「開業栄養士」というのも
これに近いところがある。
栄養士を読者とする雑誌が、
「開業特集」を企画するのは当然である。

トレンドにしろ、流行にしろ、
それらはイメージやコトバが先行するものである。
中空に漂う風船のようなところがある。
糸をつかまえれば自分のものになるが、
ほっておけば、風船は空へ。
つまりは一時の流行に終わる。
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「開業栄養士」との関連でいえば、
食事相談も、単独ではビジネスにならないと見切りをつける栄養士もいるという。
いや、公の場で、そう宣言したという。
そのあきらめの早さは江戸っ子的といおうか。
結論を急ぐのも才能の1つだが、
だから、マネジメントや語学力、
アメリカの栄養士の資格をとろう、
と人に説くようになると、
ミスリードを始める危険がある。

フードコーディネーター養成校の講師にも、
「ソロバンのはじけるフードコーディネーターになれ」と
強調する人がいた。至極まっとうな意見だが、
困るのは、本業よりも、ソロバンのほうにポイントがあると錯覚し、
自分の専門をおろそかにする学生が少なくないことである。

つまり、食ビジネスに関する自分の商品開発をしないで、
マネジメント力ばかりを磨くのは本末転倒。
それは、車の路上運転の練習をしないで、
車の掃除や、車庫への出し入れの練習ばかりを
するようなものである。

食育も、開業栄養士も、食事相談も、
現段階では、確かに不安定な風船である。
が、飛びかかっている風船の糸をつかまえる人はきっといる。
それは社会人としての経済的成功につながるとともに、
職業的使命の達成にもつながる。

手相や風水、トランプや星座など
いろいろの占いで仕事をしている人がいる。
寒風の吹きすさぶ、うす暗い街角で、
じっと人を待ち続けた先人たちの努力が、
今日をつくったということだろう。
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人生、いつも迂回ばかりしていてはダメだ。
真っ向勝負の度量と持続性、
それ以前にアイディアが問われる。
栄養士は、既存のものに乗っかることを
習性にしてはいけない。
パイオニアとしての意欲をかき立ててほしい

# by rocky-road | 2008-10-18 01:35  

2009年、おめでとう。

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来年度の手帳を買ってきて、
さっそく記入を始めた。
ついでにカレンダーも、と思ったが、
11月にならないと、
現在使っている形式のものは入荷しないという。

ともあれ、手帳やカレンダーの中では、
2009年は始まっている。
文章・編集塾の遠距離クラスを開講したので、
いつもの年よりも早めに年度計画を立てる必要に迫られ、
2010年の1月までのスケジュールを設定した。
年に10回ほど、海に出かけていた時代にも、
再来年まで予定を入れることはあまりなかった。
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わが「予暇論」では、
元気や健康を維持・増進する要因の1つとして、
「あした、週末、来月、来年の予定があること」をあげる。
モチベーションの強化の1つとなるからである。

「手帳は、脳の支店だ」と、最近、いうことが多い。
脳の記憶がどういう記号で保存されているのか
まだ確かなことはわかっていないと思うが、
その記憶の1つは、言語記号以前の記号、
いわば「未熟の言語記号」が、青い果実のように、
細胞の枝にぶら下がっているのか、くっつていいるのか、
そんなイメージでいいのだろう。

手帳は、その果実をとり出すカゴだ。
カゴを持っていると、果実をとるのにも気合が入る。
果実のほうも、カゴが外にあると、
早く熟そうとする……ここは、果実と脳とは違う。
いや、果実の栽培だって、熟成促進をするための
いろいろのテクニックがあるはず。
手帳は、脳での思考を熟成させる促進グッズ。

それを使わない人が少なくない。
先日のパルマローザのファッションショーでも、
女性のバッグにも、A4サイズのノートが入る余地がほしい、
バッグには脳の支店を入れることも忘れずに、とコメントした。

女性が、手帳にメモをとっている姿は美しい。
それは、脳内の果実をとり出している、
収穫の姿だからなのかもしれない。
茶摘みや綿摘みをする女性も美しいが、
脳の果実の収穫姿は、さらに美しい。
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さて今年は、長年使ってきたA社の手帳を
B社のものに変えた。
末尾に、日本の路線地図が入っていたからである。
これだけのことでも、2009年のフットワークが
アップするはずである。

# by rocky-road | 2008-10-12 01:21  

日記、つけてますか。

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30年来の知人、島崎とみ子氏(女子栄養大学準教授)は、
調理科学や食文化を専門とするが、
同時に江戸時代の料理や江戸の食関係の書物などの研究家でもある。
以前から手がけおられた「幕末京都町人のくらしと食」の一部を
『国文学 解釈と鑑賞』という雑誌の別冊、
 『文学に描かれた 日本の「食」のすがた』
(2008年10月1日発行 至文堂・しぶんどう)の中に発表された。
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京都の呉服商人 水口屋清兵衛(本姓 八木清兵衛)と、
その先代とが、天保9年から明治9年までの38年間
書き続けた日記のかなりの部分が、
個人によって所蔵されているという。
それを島崎先生が研究対象としているのだが、
もちろん、食生活を中心に、清兵衛の余暇活動などを追っている。
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日記には、日々の食事、行事の食事などが細かく記録してある。
たとえば、「安政4年9月15日 日和 折々雨ふり」の日の昼食は、

  棒鱈  太平皿  はも  柿
  せんまい  ゆりね 
  玉甚殿より 鱧ずし少々
  カステイラ持参被相成り

といったぐあいである。
「野菜が足りない」なんて、ここでは野暮はいわず、
38歳の家長が、使用人、近所つき合い、日々の食事のメニューなどに
いかに細かく気を配っていたかに着目したい。
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『日本の「食」のすがた』には、ほかにも興味ある記事が
たくさん載っている。
なかでも、「座談会 食と文学」は、
栄養士などが食の話を活性化するのに役立つネタの宝庫である。
平安時代、すでに自然は少し遠くになってきた、
そこで屏風絵や庭、和菓子などへと「縮小され、芸術化され、
記号化されて、四季の文化が生み出された」という。
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食事相談にそんな蘊蓄(うんちく)は必要ないだろうが、
食のバックグランドをこのくらいのスケールで見たいし、
語ってみたい。
「バナナダイエットって、効果あるんですか」
なんていう質問に即答しないで、
「バナナの産地の人、台湾人やフィリピン人は
どんなダイエットをしているのかしら?」なんて、
少しフェイントをかけてみる余裕と視野がほしくなる。

# by rocky-road | 2008-10-07 22:47