
2020年6月7日に行なわれた恒例の、
パルマローザ スペシャルセミナーを
振り返っておこう。

今回の演題は
「健康支援者がオピニオンリーダーとして、
社会的に、しかるべき役割を果たすための
アクションプラン。」
(誕生日にも当たっていたので
前後のイベントごとに祝っていただいた。感謝)

「オピニオンリーダー」とは微妙なコトバで、
辞書的には
「世論形成に大きな影響力をもつ人。
特に、有力なジャーナリストや評論家などをいう」
(広辞苑)となるが、
実際には「ファッションリーダー」や
「マーケティングリーダー」などのように、
さほど「オピニオン」(意見)や提案を持たなくても、
そのコミュニティに影響力を持つ人は多い。

そのせいか、あとから登場してきた
「インフルエンサー」との線引きがしにくくなっている。
(インターネットではその違いを述べているサイトがある)
要するに、意見や行動によって、
そのコミュニティに影響を与える人、
という理解でよさそうである。

2つのコトバの違いの議論には深入りしないで、
ここではオピニオンリーダーを
「思想や意見、行動などで周囲に、
継続的な、よい影響を与える人」と定義して、
栄養士のオピニオンリーダーについて
考えてみよう。

日本は、
すでに世界トップクラスの長寿国になって久しいが、
その成果を得るまでに、
栄養士の関与はどの程度あるのだろうか。
もともと健康について意識が高い国民で、
聖徳太子の十七条憲法にも、
「食におごることをやめよ」と
謳ったってあるという。

もっとも、そうした指針は
中国の受け売りだろうから、
飛鳥、奈良の時代から
大和人が一定の健康観を持っていたかどうかは
わからない。

ではあるけれど、本家の中国は、
漢方とか薬膳とかと、
いろいろの健康法や治療法を開発し、
日本に多大な影響を与えたにもかかわらず、
現在は、
世界の長寿国には遠く及んでいない。
それはいったい、どうしたことか。

国のサイズが違いすぎで、
単純には比較はできないが、
やはり日本は国民の健康観は高かった、
健康教育が行き届いた、
と考えたくもなる。
狭い国土は、情報の伝達には有利に働く。

さて、
日本の栄養士養成は大正時代末期に始まるが、
活躍が本格化するのは
昭和20年の太平洋戦争敗戦後である。
国家資格としての栄養士の歴史は
ようやく70余年というところである。
セミナーでは、その歴史を振り返った。

日本の栄養学や栄養士は、
佐伯 矩(さいき ただす)や
香川 綾など、医師によって基礎がつくられた。
今日、医師による怪しげな食事法を説く本が
栄養士の頭越しに、堂々と出版されるのは、
医師によって栄養士が生まれた、
という歴史と無関係ではあるまい。

とはいえ、
日本人の平均寿命、健康寿命が延びたのは
戦後の70年間、それも後半の40年くらいの間だから、
栄養士の関与はけっして小さくはないはずである……
と言いたいところだが、
そう考えようとするとき、
頭に浮かぶのは、
アジアにあって世界的な長寿国である
香港やシンガポールのこと。

香港やシンガポールが
栄養学の先進国とは思えないし、
栄養士の質量が日本を上回っているとも思えない。
このあたりの実態を調べてみる意味はありそうだ。

いずれにしろ、日本では、
栄養士の影響力はもっと大きくてもよいと思う。
テレビの連続ドラマで、ヒロインが栄養士だった、
というようなレベルではなく、
人々の健康意識に影響を与えるようなオピニオンを
トークや映像、著作物、行動などで示す栄養士が
もっと出てきてもよいのではないか、
というのが今回のセミナーのテーマだった。

その事例として、
何人かの方をあげた。
これしかいない、ということではなくて、
たまたま私が存じあげている方のうちの
ごくごく一部であることはもちろんである。
そこでまずは、
栄養士活動というよりも、テレビ出演で語った
「おいしゅうございます」の一言で
食通としてのオピニオンリーダーとなった岸 朝子さん。

早々と博士号をとって料理や食事による健康法を
多くの本で説いた東畑朝子さん、本多京子さん、
そして、栄養バランスを考えた料理を
テレビやラジオ、出版物で紹介を続ける
宗像伸子さん、竹内冨貴子さん。

この方々が活動を始めたころは、
栄養士が1冊の本の著者となるのはむずかしく、
医師の名を立てて、
実質的な仕事は栄養士が行なう、
というのが通常だった。
今日のように
栄養士が単独で本を出すなどということは
だれかがブレーキをかけたわけではないが、
通例としてできなかった。

今回のセミナーでは、
以上のように料理や健康食などを
メインオピニオンとしたリーダーのほかに、
コミュニケーションに関して特筆すべき人として
お2人をあげた。
1人は高橋久仁子さん(現/群馬大学教育学部名誉教授)。
お目にかかったことはないが、
リスクコミュニケーションの分野でご活躍。
「フードファディズム」という概念を
日本中に広めた功績は大きい。

もう1人は、影山なお子さん。
やはり食コミュニケーションに軸足を置いたオピニオン。
栄養学には
病態、応用、実践、分子、代謝、時間、ライフステージなど
いろいろのジャンルがあるが、
それらの知識やスキルを
一般の人に届ける方法についての研究は
ほとんど手つかずの状態である。
「ヘルスコミュニケーション」の分野でも
似たような状況である。

倉庫にいろいろの情報が
ストックされているにもかかわらず、
それを宅配する方法については追究されていない。
広告チラシのように
相手かまわず、
郵便受けに投げ入れることはできても、
その人の状況に合った情報を
1軒1軒、玄関でハンコをもらって手渡しはできない。

「栄養指導」という上から目線の用語は、
まさに画一的に知識を押し込むことを
促進するコトバと言ってよい。

こういう状況にあって、
「食コーチング」は、
個々人に求められる健康・食情報を
手渡しするコミュニケーションスキルである。

人は食べるために生きているのではなく、
それぞれの役割を見つけて、
または、見つけようとして生きている。
食行動もまた、
生物的活動として繰り返されているわけではなく、
食に向かいつつも、
そこから生きるモチベーションを得たり
高めたりしている。


夕食に刺身を食べるかステーキを食べるか、
ということで迷うことは、
自分の人生の行先にもつながる。
ミリ単位の前進に見えても、
それが生きるモチベーションにもなる。


70余年を経た日本の栄養学は
ようやくそこにも足をかけることになった。
食コーチングのアイディアは、
避けては通れない道にたどりついたと言うべきか、
よくぞ、そこに気がついたと言うべきか、
大事な1歩2歩であることは確かである。



食関係のオピニオンリーダーとは、
有名人になることや
マスメディアで活躍することと同義ではない。
「おいしそうに食べる」
「箸の持ち方がきれい」
「笑顔がステキ」
「姿勢がいい」
「身だしなみが行き届いている」
「献立にバリエーョンがある」
「話し方に品格がある」
そういうことで、
だれかによい影響を与えているとすれば、
それをも「オピニオンリーダー」と
考えてよいのではないか。

あるコミュニティに
「ヒラメ顔の無表情な栄養士」がいるという。
こんな人を「カレイ顔」に変えるか、
「コイ顔」か「タイ顔」か、
「ウナギ顔」に変えることができたら、
その人は、オピニオンリーダーとしての階段を
1段上げたことになる。


▲ by rocky-road | 2020-06-20 21:09 | パルマローザセミナー