
2013年12月21日の読売新聞に
恒例の「読者が選んだ日本10大ニュース」が
紹介された。
10位までの順位は以下のとおり。

①2020年東京五輪・パラリンピックの
開催地が東京に決定
②富士山が世界文化遺産に決定
③参院選で自民、公明両党が過半数獲得、
ねじれ解消
④楽天が初の日本一
⑤長嶋茂雄氏と松井秀樹氏に国民栄誉賞
⑥伊豆大島で土石流災害、死者35人
⑦消費税率8%へ引き上げ決定
⑧楽天の田中投手が連勝の新記録
⑨阿部首相、TPP交渉参加を表明
⑩ホテルなどで食材偽装の発覚相次ぐ
30位までがランクアップされているが、
「和食 日本人の伝統的な食文化」は入っていない。

10位に食材偽装問題、
16位に都知事の不明朗な5千万円の借用、
30位に「徳洲会」の選挙違反事件などの
政治的なダークな事件が入って、
和食文化が入っていない。

日本人が、自分たちの食文化にいかに無頓着かを
露呈しているような結果にも思えるが、
そうではなくて、
和食が文化遺産に登録されたのは12月4日だから、
調査のタイミングがズレた、ということではないかと思う。
してみると、
10大ニュースを12月21日に発表するのは
正確さからいって不適当なのではないか。
個別的な政治スキャンダルが10大ニュース史に残って、
和食文化の世界遺産登録が消えてしまうというのは、
いかにもアンバランスに思える。
やはり、1年が終わった時点で振り返るべきだろう。

いやいや、ニュースなんていうものは、
新聞社の商品アイテムなのだから、
どの商品が売れた、なんていう、コマいことをいうのは
大人ではない、と自制すべきなのか。
それはそれとして、
和食文化の世界遺産登録は、
和食料理店のイニシアティブで進められたらしく、
これを解説し、補強する論者の多くは
料理人である場合が多いように思う。

健康支援者としても、
和食文化論を確認しておかないと、
小さなボタンのかけ違いが、
先へ行って、大きな開きが出てきそうな懸念がある。

事実、味噌がどれぼとからだによいかを
やや強調し過ぎる料理人の言、
理念としての地産地消論を
和食文化そのもののように強調する料理人の言などを
メディアで耳にした。

「一汁三菜を基本とする」などとフツーにいうが、
「汁は毎食飲まないといけないのですか」
「スープも汁ですか」「カレーもスープと考えていいですか」
「パン食でも汁やおかずを組み込めばいいのですか」
などの疑問を呈する若者が出てくるのは時間の問題。

実際、いい歳をした料理人が「いちじる さんさい」などと
テレビでいっていたから、
時間の問題などとノンキなことをいってはおれない。
やるのは「いまでしょ」なのである。

暗黙の了解になっている「一汁三菜」の
前提になっているご飯のことも、
定義に含めておく必要があるだろう。
まだ「試考」段階だが、こんな定義が必要かもしれない。

「和食とは、米飯(ご飯)におかず、という構成を基本とする
献立および食事を指し、これに1日1~2回の味噌汁または
すまし汁を添える。食器は茶わん、箸、椀を基本とする。
おかずとは、ご飯をおいしく食べるための一定の味のある
動物性食材、植物性食材を調理したものをいう。
これらのおかずのうち、動物性の食材または、
大豆を素材とする、良質たんぱく質源となる食材を
使ったおかずを『主菜』といい、野菜、芋、海藻、きのこなど、
植物性素材を使ったおかずを副菜という。

『一汁三菜』という場合、
ご飯、味噌汁、主菜一品、副菜二品のセットをいう。
実際には、ご飯に主菜一品、
ご飯に主菜一品、副菜一品がついたものなどがある。
これに汁がつくことで、『一汁一菜』『一汁二菜』
などのように献立の呼び方が変わる。
食材の選び方、調理の仕方、献立、盛りつけ方には
季節、朝・昼・夕に応じた暗黙の決まりがある。
『春は春らしく』『夏は夏らしく』という
季節感が重んじられ、さらに、『朝は朝らしく』など、
一定の慣習が守られている。

使用する茶わんや箸は、家族間では個人ごとに決まっていて、
それは重要なこととして守られる場合が多い。
食事の前に『いただきます』、
食事が終わったあとには『ごちそうさま』という。
それは、食物に対し、生産者に対し、作ってくれた人に対する
感謝を意味する。
『いただきます』をいうとき、
合掌や、それに近い拝礼をする人もある。
食事中は原則として中座することは禁じられる」

健康上の意義としては、
1.ご飯を主食とすることで、
おかずの食べ過ぎを抑止することになる。
日本人にとってステーキが『主食』になりえないのは、
水分を含んだ米で、先におなかを満たすためである。

2.茶わん、箸という食器を使うことで、
フォーク、ナイフを使う余地が狭められている。
箸を自在に使って食べられるおかずとしては、
焼肉であり、すき焼きであり、ハンバーグであり、
とんかつである。

3.ご飯は味がうすいため、しょうゆや味噌、ソースなどの
調味料で味つけされたおかずの助けが必要。
焼肉やすき焼きは、この条件に合っている。
日本人が好きな肉料理といえば、肉の味が染みた野菜などを含むおかずである。
肉のうまさを「やわらかくておいしい」と表現するのは、
口の中でご飯と混ざったときの、咀嚼しやすさ、
日本人の習慣的な歯の強度などからくる
必然的な味覚によるものと考えられる。

4.茶わんに盛ったご飯、箸の使用は、
日本人の食事を「欧米化」から守ってきた。
「欧米化」の砦とさえいえる。
戦後、いろいろの面でアメリカ化した日本人だが、
言語を英語に変えなかったこと、
土足で家に上がらなかったこと、
ご飯、茶わん、箸を捨てなかったことなどは、
奇跡的ともいえる文化的成功例。
皿に盛ったライスは、少しずつ「茶わん化」されつつある。
「茶わんよ、箸よ、よくぞがんばった!!」
皿を口を持っていって食べる食べ方について、
洋風マナー研究家がどういおうと、
これぞ和風文化の防御行動なのである。
社内公用語を英語にした会社の従業員の食生活、
健康行動がどう変わるか、
そうはしなかった会社との違いを
数十年がかりで追跡研究されることが望まれる。

《補足》
辻調理師専門学校が、
全国の20~60歳代の男女572人に対して
インターネットで行なった
「和食ならではと思う料理」としてあげられたものは、
①すし 44%
②刺身 9%
以下、味噌汁、天ぷら、煮物、肉じゃがと続いた。
(読売新聞、12月23日)

このように、
和食を一料理という部分だけで見るのは、
正確ではないし、
あまり意義があるとはいえない。
天ぷらやすき焼き(牛鍋)、肉じゃがなどが
純和風かどうかを論じることは生産的ではない。
それにしても、「和風ならでは」のバラケよう。
1位が44%で2位が9%、
なんとまとまりの悪い調査だろう。

これぞ、ご飯と茶わんを中心とした食生活の適応力。
ここに軸足があれば、料理単品の国籍がどこであっても、
さしたる問題ではない、ということの好例。

ラーメンや「カレーライス」、焼き肉が
日本を代表する料理になったように(?)、
ギョーザやハンバーグ、とんかつ、サイコロステーキ、
レバニラいためなどが和食と考えられる日が
きっとくるだろう。

このあたりから、
日本料理店の考える「和食」と、
健康支援者が考える「和食」とは、ズレ始める。
健康支援者は、「健康」をとるか「文化」をとるか。
それは愚問。
「健康維持を阻害しない範囲で文化を尊重する」
が答えだろう。
それによって、文化遺産をとり消されたとしても。

なぜなら、文化とは足跡ではなく、
現在進行中の歩行であり、
次の1歩をどこに置くかのヒントなのだから。
▲ by rocky-road | 2013-12-23 22:50