
健康支援者や教育関係者に編集スキルについて
お話しする機会がふえている。

7月5日には広島県市町保健活動協議会栄養士部会/
広島県国民健康保険団体連合会共催による
「食情報・健康情報発信者のための
企画力・表現力強化法」 
7月8日には、山口県栄養士会 生涯学習研修会主催による
「栄養士の媒体づくり いまより3倍は楽しくする編集力」
というテーマのお話をさせていただいた。

自分の執筆予定ノートには、30年以上前に
『暮らしの中の編集技術』を記載した者としては、
いま、一部の健康支援者、食関係者から、
編集スキルを基本から学びたいという声があがったとしても、
意外に思うことはない。
健康支援者に限らず、もともと編集技術は、
万人の生活技術として身につけておききたいものの1つ。
ましてやいまは、パソコンの時代。
30年以前とは社会環境がまったく違っている。

現在なら、「ビジネスマンのための編集技術」から
「主婦のための編集技術」「飲食店経営者のための編集技術」
「グループリーダーのための編集技術」まで、
あらゆる職種、あらゆる階層向けの編集入門書が可能であり、
それなりの部数を確保する自信はある。
名刺も年賀状も、表札も、手紙やハガキも、
ガーデニング愛好家が草花につける名札も、
写真をアルバムに貼る方法も、
もちろんメールもホームページも、
編集作業そのものといってよい。

もっとも、編集物という自覚のないホームページは多く、
これがネット世界のゴミとなって、
少なからずの人に迷惑をかけるばかりか、
低々教養社会を安値安定させている。
公的に配布する印刷物(新聞、チラシ、パンフレットなど)
ともなれば、単に個人の趣味だから、ではすまされないほどの
重い社会的責任を負うことになる。

「公器」とは、かつては大新聞についていったが、
いまは、情報提供者が分散し、分野別に責任を果たす時代、
ミニ・メディアといえども、「公器」の一翼を担っている。
「給食だより」などを、各担当者に一任している現状は、
無免許運転を黙認しているのに等しい。
さすがに大手の業界連合組織では、
健保組合ニュースや社内報担当者に、
外部講師による編集入門講義を受けさせている。
何十年も前から、そうしているから立派。

栄養士の世界では、
各地域の栄養士会などが、メディアの重要性に気づいて、
自主企画を立てて、今回のように
セミナーを開くようになった。
それは、各職場で発行するメディアの
質を向上させるためであることはいうまでもないが、
それ以前に、担当者のストレスを少しでも軽減させるという
医学的目的もあるように思う。

自分の作るメディアに責任を感じ、
その内容を吟味する習慣が定着すると、
提供する情報の質が向上する。
たかが数百部、数千部の広報メディアでも、
連続的に提供する情報は、
かならず個人を変え、社会を変える。

年に数回行なう、住民対象の料理教室や講演会によって
動員できる人数は数百人。
しかし、魅力的な情報を提供すれば、
数千人の読者がついてくることになる。
上層の責任者は、このあたりの原価計算をしてみるとよい。

編集技術に関して、
山口県のセミナーでは、ホームラン級の質問が出た。
「私も〝おたより〟を作っているのですが、
あれもこれも盛り込みたくなって、
わかっていながら、つい盛りだくさんになってしまう。
これを抑えるコツのようなものはないでしょうか」

たったお1人のこの質問によって、
集まった人たちの知的レベルの高さを
アピールすることになった。
「情報の威力、ここにあり」か。

私は、こう答えた。
「献立を考えてみてはいかがですか。
きょうはカレーだけど、お刺身をつけて、
ついでにギョーザもご一緒に……。
これでは食事が台無し。

一汁一菜でいくか一汁三菜でいくか、
そこが判断のしどころ。
食事は適量でこそおいしいのだから。
でも、地球がきょうで終わるという日には、
あるものなんでも食べてしまいたくなるかも」
いただいた3時間のセミナー自体、
やや盛りだくさんではあったが、
なんとか時間どおりに終わった。

帰りの飛行機内で読むつもりで、
週刊誌を買ったら、その中に、
講義で話した「品格のない記事」を見つけた。
女優の人気序列を示した記事なのだが、
嫌いな女優のリストも示している。
好き嫌いはだれにでもあるが、
嫌いのリストアップまでして、
どこのだれともわからない人の
声なき声を紹介する意味がわからない。
アンケートの集計らしいが、
なんと生産性のない、低俗な企画だろう。
「いけないビジネスマン」のリストアップなら、
そこから学ぶこともあるが、
女優さんのマイナス要素を聞いても、
なんの情報にもならない。

娯楽雑誌では、ストレス緩和目的で、
そんな企画もするが、超老舗の出版社の週刊誌でも、
こんな無意味なことをするのである。
(人の悪口は、努力しないで偉くなったような気分になる、
一過的ストレス緩和法。
「貧乏ゆすりも運動」と同列のお手軽主義)
これは、編集長の好みであって、
出版社の意図ではないが、
日本人の品格は、こういうところからも低落する。
この週刊誌、例の1日1食論のマユツバドクターの
「ガンにならない生き方」を連載しているが、
もちろん、そんな生き方を、
そのドクターが保証できるわけはない。

編集長が、この連載をしたことを恥じる日は、
おそらく3年以内にくるだろう。
3年もすればこのドクターのマユツバ度が
世間に知れ渡るだろうから。
健康支援者への教訓。
知的レベルの高いものを多く出す出版社でも、
こと、健康論、食事論になると、
ほとんど素人のスタッフが多い。
それを肝に銘じておくことである。

いずれにしろ、編集力は一朝一夕には身につかない。
「編集力は生活技術、ハッピーに生きる環境づくり」
そう信じて一生、スキルアップを心がけることである。