
少なからずの人から、
栄養士である先輩や上役との人間関係に関する相談を受けた。
いわく、
私的な用事を頼まれる(「デパートで人に贈る物品を買ってきてほしい」
「休日に自宅の部屋の整理を手伝ってほしい」など)、
職場で、あえて人前で自分を大声で叱責する、
学閥的なネットワークをつくっている、
他のセクションの人に対して部下のことを悪く言う
(「まったく使い物にならない」「年ばかり食っている」など)、
人の衣服や持ち物が派手だと干渉する、
本人の身だしなみが著しく悪い(家庭着のようなもの)、
栄養士とは思えないほどの肥満なのに
それを是正する意志が感じられない、などなどである。

なかには単なる愚痴もあるが、
みなさんが示す先輩たちからは、ある傾向が感じられる。
たとえば、部下や後輩に対して使うコトバに折り目正しさがない
(「バカじゃないの?」「あんたを採用した人に言ってやりたい」)、
文句はいうが、改善策を示さない(示せない)、
そもそも部下や後輩を育てるという意識もスキルも希薄、
しかし、上役や他のセクション、行政では住民との関係はよい、
などなどである。
なぜこういうエセリーダーが存在し得るのか。
1.普通の職場では、栄養士の数がチームを作るほど多くはないので、
個人的スキル(というより自己流)ばかりが前面に出てきて、
チームとしてのシステムができてこない。
2.本人も、そうした自己流で育ってきたので、改善意識は皆無。
自分がそこから離れたときにも、そのセクションが機能するように、
というような発想がない。
3.上役からのチェックが少ない。1人職場が多く、
その1人に任せっぱなしにしてきたので、
それなりに地歩を固めてきている。こうなると周囲から口出ししにくい。
4.同様に、部下や後輩からのクレームや突き上げがない。
いじめられている者は、自分が退職することで解決を図ろうとする。
5.パートや非常勤職員が多く、1人管理職が育ちやすい。
どこの職場も、非常勤に対しては尊敬度が低い傾向がある。

しかし、こんな状況をほおっておいては、
健康支援者としての理念や夢は育ちにくいし、
健康支援者に対する社会の認知度はあがらない。
人前でいつも怒鳴られているようでは、
その人を尊敬する環境など、生まれるはずもない。
そういうリーダーの下で働いている人は、
2つのことを同時進行で行なう必要に迫られる。
1つは、上役や先輩対策。
もう1つは、少なくとも自分は、後輩や部下を育てることを意識すること。

「1」の上役・先輩対策としては、
(1)相手のリーダー意識の低くさは、教育不足からきているので、
上役の教育をし直す。健康支援者に限らず、
上役といえども、部下が育てる要素は少なくない。
「課長、いい決定をされましたね」
「ちょっと待ってください。私はあなたがいうほどバカじゃないから
そこまでご指摘されればわかりますよ」
「みなさんの前で、少しおコトバが過ぎませんか」(あえて周囲に
聞こえるようにいうのがコツ。周囲を味方につける)
(2)いよいよ我慢の限界に来たときには、対決を辞さず、
「中央突破」を試みる。
「課長、○月◎日、2時間くらいお時間いただけませんか」
できれば貸し会議室などを自費で取って、そこに呼び出す。

①論が立つ人は、いままでいわれたことの問題点を記録したノートを示し、
1つずつチェックしていく。(ひそかに録音することも一法)
被害者が複数いるときは、被害者チームで対決する。
②論が苦手な人は、「私、あなたのお荷物になっているようですが、
この際ですから、洗いざらい聞かせてほしい」と情に訴える。
1つ指摘されるごとに涙1滴。相手のガス抜きが目的。
解決しないか、もっと相手が高飛車になるリスクはある。
③啖呵(たんか)が切れる人は、スバッと。
「いままで我慢をしてきたけれど、ここまできたら、
言わないわけにはいきません。だいたい、
あなたご自分を何様だと思っていらっしゃるの?
私だって、成人式を○年前に迎えた大人ですよ。
1社会人に言っていいことと、悪いことっていうのが
あるんじゃぁございません? この件について、労働基準監督署に
聞いてみようと思っているですが、よろしゅうござ~ますね」
「2」の後輩や部下の育て方について。
(1)組織というものは、1人が1人の仕事しかしていなかったらつぶれる。
下位の者のモチベーションを高め、チーム力をつけると、
何倍もの成果をあげることができる。
(2)同時にまた、職場環境、コミュニケーション環境を
よりヘルシーなものにするという、
健康支援者としての職業的使命からも、
後輩の職場環境をよくする努力を要する。
それは、職場でお友だちのように馴れ馴れしく話しかけるということではなく、
社会活動を折り目正しさを保ちながらも、効率よくコミュニケーションを
とり合い、そのリーダーらしい姿勢を実例として後輩に示すことである。
人に「リーダータイプ」と「非リーダータイプ」という区分はありえない。
あるのは、「リーダーのとき」と「非リーダーのとき」である。
そして、「リーダーのとき」と「非リーダーのとき」とは、時々刻々に変わる。
同僚同士、部下と上役、旅行仲間、家族、親戚の寄り合い……。
こうした変化に対応する役割分担と、その自覚がないと、
その人は、快適で創造的な人生は送れないし、社会参加の機会も狭まる。
現状は、リーダー教育を不十分にしか受けていない先輩に
頭の上から網をかぶせられている状態かもしれないが、
リーダーとは何かを知ってしまった以上は、
後輩や入門者に対してはもちろん、
上位の立場に対してもリーダーシップを発揮する責務が生じる。
「そんなの、栄養士の守備範囲外」と考えるのは誤り。
病気予防のレベルに「0次予防」というのがある。
これは、社会環境の整備によって人々の健康度をあげよう、
というレベルの話である。
よい職場環境づくりへの参加は、
健康支援者にとって十二分に守備範囲なのである。
▲ by rocky-road | 2010-02-26 21:43