2023年度 「使いたくない日本語・日本語表現大賞」発表。
2023年度
「使いたくない日本語・日本語表現大賞」発表。
年末には、『現代用語基礎知識』という辞書が選定する
「新語・流行語大賞」が発表されて話題になる。
そこで、わがロッコム文章・編集塾でも、
「使いたくない日本語。日本語表現大賞」を
選ぶことにする。
実際、授業でも、
「NHKが使っても使いたくない日本語、日本語表現」
というテキストによって講義をしている。
以下は、
上記のテキストにも収載してある事例の1つでもあるが、
2023年度の(に限らないが)
「使いたくない日本語、日本語表現大賞」として
記しておきたい。
「ほしい」
NHKが頻発する表現。
各地の取材先で、いろいろの人にインタビューした場面で、
登場する人が
「ぜひこちらに来ていただきたい」とか、
「これをみなさんに召しあがっていただきたい」とか、
「ぜひご覧いただきたい」とかと発言しているのに、
テレビの画面のスーパーインポーズでは
「……してほしい」となっている。
ラジオも同様で、
そうは言っていない流れなのに、
「『県庁では市民に対して〇〇してほしい』と言っています」
「道路管理者は『注意してほしい』と話していました」
などと放送している。
日本語には、人になにかを期待するとき、
「いただきたい」と、ていねい表現を使う。
そのため、「早くコロナが収まっていただきたい」
「そろそろこの暑さ、やわらいていただきたい」
などと、コロナウイルスや天候にまで
ていねい表現を使ったりする。
国語的には誤りだが、その態度は好ましい。
それに対してNHKは、
登場人物が「いただきたい」と言っているのに、
「ほしい」と言い換えてしまう。
ときには、もっと荒っぽく「もらいたい」とまで〝誤訳〟して、
相手の国語力や人間性を貶める。
そのことを電話で伝えたら、
担当職員は歯切れの悪い言い訳をしていた。
「スーパーの文字数を減らすため」と。
そうだとしても、
人格がうかがえる表現を要約してしまうのは、
一種の人格侵害ではないか、
と指摘したが、
巨大組織の傾向を、電話に出た担当者が
電話で釈明できるものではない。
かくして、
「ほしい」「もらう」という、ナマの欲求表現が、
ジワジワとていねい表現化しつつある。
NHKの影響とも思えないが、
若者の発言にも、
「ほしい」や「もらう」をていねい表現的に使うケースがふえている。
「大学は、もっと部員の希望を聞いてほしかった」
「親には娘の意志を尊重してほしい(もらいたい)」
しかし、NHKの場合、
「ほしい」や「もらう」がていねい表現ではないことを
忘れてしまったわけではない。
自分のお願い事には、しっかり、ていねい表現を使っている。
受信料や引っ越しなどに関する「お願い」では、
「……いただきますよう、お願いします」と。
この使い分け、なにんともいやらしい。
相手によって使い分けるのである。
一市民の発言は「ほしい」と誤訳しても
なんとも感じないのがエリート意識だろう。
職員の多くは、周囲からチヤホヤされ続けている者が多く(たぶん)、
一般人を無意識的に低く見る深層心理がある。
NHKには、放送文化研究所という施設があって、
アナウンサーの教育や世論調査を行なっているが、
所詮は同じエリートたち。
視聴者が簡単に気づく表現の歪みにも
気がつく感性はまったくない。
「ほしい」には多分に内語的のニュアンスがある。
「金がほしい」「時間がほしい」「文句を言わないでほしい」
したがって、
比較的身近な人に対して使ったり、
尊敬の対象にならない事物や現象に対して使ったりする。
「ママ、あれがほしい」
「モノではなく、君のココロがほしい」
「景気がよくなってほしい」
「そろそろひと雨ほしい頃」
国の壊れ方にもいろいろあって、
他国に侵攻される、内戦が起こる、
人種の混交が進む、天変地異に見舞われるなど。
それに対して、内部からの崩壊がある。
協調性の衰退(二極化など)、
国民の海外脱出、地元離れ、
精神的には祖先への敬意低減、
そして、言語の損壊など。
コトバの乱れは、協調性衰退の一因になりうる。
とりわけ、敬語やていねい表現の軽視。
NHKは視聴料を取って、言語損壊を進めていることになる。
器物損壊は罪になるが、
言語損壊は犯罪の対象にはならない。
器物損壊の比ではないほど、
影響は大きいのに。
「日本句読点学会」は、
「NHKから国語を守る部会」を
設置する必要に迫られている。
ご支援、ご協力をお願いしたい(×協力してほしい)。
とはいえ、救いはあるもので、
街歩きを楽しんでいたら、
古着屋の陳列品に、こんな表示があった。
「本日、お値下げしました」
値段は、売り手と買い手との共有物。
だから「お値段」と、「お」をつける。
日本語の美しいところは、ここである。
「お寒うございます」「お暑うございます」
「お天気、よろしいようで……」
「お3人様、こちらのお席にどうぞ」
「お値下げ」の古着屋さん、
カウンターを見たら、
「お会計」とあった。
【日本句読点学会からのお願い】
1.年末に受け取った印刷形式の「喪中あいさつ」のうち、
句点のないものが何点あったか。
2.印刷形式の年賀状のうち、
句点のないものが印刷形式の全受け取り賀状のうち、
何パーセントであったか。
上記についてご連絡いただいた方には
学会から、句点「。」を5つ差しあげます。
by rocky-road | 2023-12-30 20:33 | 大橋禄郎