銀河系の仲間たち。
新聞の書籍広告で、
『孤独にならない老い方』
(高田明和著/成美堂出版)
という本に目が止まった。
「孤独」や「断捨離」をすすめることが
長く流行している時代に
久々に(いや、たぶん初めて)、
孤独が健康寿命のリスクになることを
前提とした内容の本が出たようである。
資料価値ありとみて、さっそく購入した。
期待どおり、
「第1章 思い出と語らって生きる」
「第2章 家族のきずなを温めて生きる」
「第3章 1人を楽しんで生きる」
「第4章 友と再び出会って生きる」
「第5章 心を乱さずに生きる」
「第6章 愛の力を見直して生きる」
(以下、省略。全9章)
などと、人間の共立共存習性を肯定する新刊である。
著者の高田氏は浜松医科大学の名誉教授。
1935年生まれの医学博士とのこと。
「人は本来、1人です」などの、
平凡な、私の嫌いなフレーズもあるが、
この本のコンセプトは、
孤独を嘆く人を救うことにあるようなので、
黙認することにしよう。
「人は本来、1人」という言い方が嫌いなのは、
「あたりきしゃりき」のことを、
大の大人がもっともらしく語ろうとする、
その〝したり顔〟がいやなのである。
これに類するのは、
「戦争はいけない」
「平和がいちばん」
「原爆はいけない」
などのフレーズである。
当たり前のことをもっともらしく言うことで、
自分のポジションを得ようとする、
その安易さ、横着さ、ときに偽善者ぶり、である。
ほんとうに「いけないこと」ならば、
「そのために、何をすべきか」
次のアクションを示すべきであるし、
自分もアクションを起こすべきである。
唱えるだけで成就するのは、信仰である。
もっとも、そうした信仰を仲間と共有し、
みんなで運動として続ければ、
少なくとも本人のモチベーションにはなるから、
「無意味なことはやめたほうがいい」
とまではいってはいけない。
信仰の自由である。
健康論として見れば、
「〇〇はいけない信仰」は
協働仲間がいる限りは、
孤独にならない生き方であり、
だれもが実行可能な生涯現役のカタチとして
それなりの存在意味はある。
「戦争はいけない健康法」
「平和がいちばん健康法」
「原爆はいけない健康法」
いずれも、到達点がはっきりせず、
手段もシンプルで、結果は出るようで出ず、
そのあいまいさゆえに、
持続性のある健康法として評価できる。
上記の本を、
『孤独のすすめ』や『極上の孤独』『健康という病』
『夫婦という他人』『ひとりで生きる』
『あした死んでもいい 片づけ』
などという本を書いた能天気著作者に読ませたい。
孤独や断捨離、終活などといった
マイナスのモチベーションを
なぜ人に押しつけるのか。
それを社会心理学的に見ると、
「やるべきことが見つからないから」
ということになる。
そんな人でも、
自分の持ち物を捨てることくらいならできる。
日本人が「他律的国民」であることは、
古くから指摘されている。
周囲の人や外国の動きを見て自分の方向を決める。
いまは、世界の警察だったアメリカが
パワーダウンし、
余った心的エネルギーを国内で燃焼させようとしている。
リベラル派が好きな「差別反対運動」も
終点のない信仰のようなものである。
その他律的国民が、
いま、周囲の国から攻め始められているのに
気づかずにいるのは、
「〇〇はいけない信仰」の影響だろう。
さて、
人種差別、男女差別、貧富による差別……
それらに反対するあたりまでは、わからないこともないが、
ひととおり地面を平らにし終わると、
今度は、身長の長短、居住環境の是非、
出身校の評価、ルックスの良否など、
次のテーマを探し求めるに違いない。
しかし残念ながら、
人間に、いや、生物に、いや物質に
差がないものなど1つもない。
日本も、さっそくアメリカの影響を受けて、
似たような議論を始めている。
人類が、100%個体差をなくし、
平等になる日がくるとすれば、
それは大宇宙が消滅する日である。
話を戻そう。
孤独を楽しんではいけない。
しかしそれは、
1人で瞑想すること、思考を深めること、
読書をすること、1人で墓参をすること、
1人旅をすることなどなどを
否定するものではない。
孤独からの誘惑を感じている人は、
まずは、愛する対象を見つけることである。
想い出、古いアルバム、庭木、野生の動植物、
ペット、仕事、遊び、旧友、〝現友〟、神や仏……、
それが生きるモチベーションである。
体調を崩して、自分では動けない人も、
介助する人たちに、
それなりのモチベーションを与えていると、
考えてしまおう。
神羅万象を愛することは、
自分に使命を与えることにもなる。
それは健康法ではなく、
ヒトとしての社会に対する義務である。
その結果として、健康がついてくる。
愛すること(使命)があって健康がある。
この順序が大事である。
断捨離だの終活だのは、
一種の敵前逃亡である。
ここで一句。
銀河系宇宙のすみの蛍狩 (小檜山 霞)
by rocky-road | 2021-10-29 21:54 | 大橋禄郎 文章教室