会社や雑誌に必要な栄養補給とは。

会社や雑誌に必要な栄養補給とは。_b0141773_20455301.jpg

「㈱水中造形センターの倒産」という情報が

地方の友人から入った。

倒産は7月だという。


不覚にも、この情報を1か月後に知ることとなった。

創設者の舘石 昭氏(たていし あきら)が他界(2012年)してからは、

同社とは、すっかり縁遠くなっていた。


「水中造形」について、私の角度から書いておくことは

なんらかの意味があると思うので、以下、記述してみよう。


舘石昭さん(19302012年)と出会ったのは

1960年末から70年(昭和44~45年)の初めころ。

日本で最初のダイビング専門誌『マリンダイビング』が創刊され、

その第1号か2号かの写真の扱いについて

異見を伝えるハガキを送ったところ、

1度、お目にかかりたい」とのご返事があり、

当時、東京の大塚にあったオフィスを訪ねた。

会社や雑誌に必要な栄養補給とは。_b0141773_20454381.jpg

舘石昭さんは、戦後のスクーバダイビングの

第一次期の習得者のお1人。

ダイビングは、進駐軍のレクリエーションだったものが、

近くにいた日本の青少年を通じて伝わった、とされる。

「オレが最初」という人が多いが、

輸入期を1945年から1955年までの10年間とすれば、

舘石さんは第1世代のお1人。


千葉大学工学部意匠学科に入学したこともあって、

芸術性のある被写体を求めて水中写真を始めた。

当時は、海の生物の生態を記録することが中心だったが、

舘石さんの写真は、

モデルと海洋生物という構図を基本とした。

モデルとの綿密な打ち合わせのあと、水中撮影となる。

こういう演出のある写真は、

そう簡単には他者の追随を許さない。

会社や雑誌に必要な栄養補給とは。_b0141773_20561611.jpg

さて、大塚の事務所を訪ねたときの話。

いろいろと意見を言ったら、

「ダイビング雑誌といえども、ちゃんとした国語を使った、

文化財として恥ずかしくないものを創りたい」と、舘石さん。


現役編集者(私は女子栄養大学出版部勤務)にとって、

このセリフは殺し文句である。

大いに共感し、以後、月1回の編集会議をはじめ、

いろいろの用件で大塚に伺うことになった。


私の勤務先は駒込。大塚までは2駅。

自分の仕事が多いときなどは、

午後7時から予定した編集会議に間に合わず、

9時くらいまで待ってもらったこともある。


こんなふうに始まって、2000年くらいまで、

およそ30年間、外部スタッフとして

舘石さんをはじめ、

水中造形センター(海の写真のライブラリー)や

『マリンダイビング』のスタッフと

かかわりを持つようになる。

「ライブラリー」とは、貸し出し用の写真をストックしておく会社。

もともとは水中写真のプロダクションであったが、

『マリンダイビング』の発刊によって、

出版社にもなってゆく。


そのため、出版事情をお伝えしたり、

書籍の企画や編集(『ニコノスフルガイド』ほか)、

雑誌の創刊(『海と島の旅』『マリンフォト』)の企画・編集などの

お手伝いをしたりすることになる。

また、3誌ある雑誌に、順次、連載記事を書き続けた。

会社や雑誌に必要な栄養補給とは。_b0141773_20593144.jpg
会社や雑誌に必要な栄養補給とは。_b0141773_21162790.jpg
会社や雑誌に必要な栄養補給とは。_b0141773_21154756.jpg

私自身はスノーケリングクラブや

水中アマチュアカメラマンサークルの運営に

かかわり続けていたので、

アマチュアダイバーのニーズを

雑誌や書籍に反映させることができた。

会社や雑誌に必要な栄養補給とは。_b0141773_21004876.jpg

さらには、会社の運営についても

いろいろと私見を述べた。

会社運営の経験がない私の意見を

舘石さんはよく聞いてくれた。

会社や雑誌に必要な栄養補給とは。_b0141773_21011221.jpg

会議のあと、車で家まで送っていただき、

そのまま車中で話しこんでいたため、

早朝、豆腐売りのラッパの音で、

翌日になってしまったことに気づいたこともある。

近くに外務大臣の自宅があったので、

警備中の警察官に声をかけられることが何回かあった。

会社や雑誌に必要な栄養補給とは。_b0141773_21020058.jpg

さらに、舘石さんが海外に出張中には、

カメラマンの売り込みの対応をしたり、

入社希望者の面接などを代行したりもした。

会社や雑誌に必要な栄養補給とは。_b0141773_21101230.jpg

そして、私自身の本も出していただいた。

(『ハッピーダイビング』)

会社や雑誌に必要な栄養補給とは。_b0141773_21014644.jpg

会社や雑誌に必要な栄養補給とは。_b0141773_21070482.jpg
人物往来もあった。

スノーケリングクラブの仲間や、

女子栄養大学出版部の元スタッフを

編集者、校正マンとして紹介したり、

元『マリンダイビング』のスタッフを

『栄養と料理』のスタッフとして招いたりした。

彼は、のちに『栄養と料理』の編集長になる。

会社や雑誌に必要な栄養補給とは。_b0141773_21131727.jpg

また、『マリンダイビング』のフォトコンテストの

審査員のお1人であった「ムツゴロウ」こと

畑正憲さんとの知己を得て、

のちに『栄養と料理』に1年間の連載をお願いした。

会社や雑誌に必要な栄養補給とは。_b0141773_01073250.jpg

会社や雑誌に必要な栄養補給とは。_b0141773_21042766.jpg

いま活躍中の水中カメラマン・中村征夫さんは、

水中造形センターのカメラマンであったし、

望月昭伸さんというカメラマンも同様。

望月さんとは『海と島の旅』の創刊前に

フィリピンや沖縄の街を取材した。

が、1999年に小笠原島で

クジラの生態を水中撮影中に事故で亡くなった。

会社や雑誌に必要な栄養補給とは。_b0141773_20553761.jpg

舘石さんからは、水中写真の撮り方を

間接的に(見よう見まねで)教えていただいた。

会社や雑誌に必要な栄養補給とは。_b0141773_21043664.jpg
会社や雑誌に必要な栄養補給とは。_b0141773_21074648.jpg

フィリピンや香港の海で、

舘石さんの撮影の様子を観察していて、

被写体の待ち方などを学んだのである。

会社や雑誌に必要な栄養補給とは。_b0141773_21080982.jpg

そのお陰で、

『マリンダイビング』の第11回フォトコンテストでは

「グランプリ」をいただき、

会社や雑誌に必要な栄養補給とは。_b0141773_21053074.jpg
会社や雑誌に必要な栄養補給とは。_b0141773_21035941.jpg

富士フイルム主催のネイチャーフォトコンテストでは「金賞」、

会社や雑誌に必要な栄養補給とは。_b0141773_21053948.jpg
会社や雑誌に必要な栄養補給とは。_b0141773_21054511.jpg

読売新聞社主催の第29回《よみうり写真大賞》テーマ部門では

1席」をいただいた。

会社や雑誌に必要な栄養補給とは。_b0141773_21050026.jpg
会社や雑誌に必要な栄養補給とは。_b0141773_21041273.jpg

舘石 昭さんは、2012年に9月に82歳で他界された。

会社や雑誌に必要な栄養補給とは。_b0141773_21102395.jpg

会社はお2人のご子息に引き継がれたが、

2人ともダイビングの経験がほとんどないままに、

父親の会社を引き継ぐことになった。

会社でも商品でも、芸術作品でも創作物でも、

コンセプトがしっかりしていないと長続きしにくい。

雑誌はもちろんのことである。

会社や雑誌に必要な栄養補給とは。_b0141773_21144008.jpg

そういえば、

私が提案した雑誌(『海と島の旅』)も、

舘石さんがご存命中に廃刊になった事実がある。

私が完全に編集からも連載からも抜けたあとのことである。

連載では、海への旅の楽しさ、楽しみ方を謳い続けた。

会社や雑誌に必要な栄養補給とは。_b0141773_21143355.jpg

人は「自分らしく」なんて生きられない。

カレーライスがおいしいのは、

「おいしい」という人が多いからである。

オリンピックが楽しいのは、

隣の人と肩をすり合わせながら歓声をあげるからである。

会社や雑誌に必要な栄養補給とは。_b0141773_21153582.jpg

無観客のスポーツゲームは、

少なくともファンにとっては、

具が1つも入っていないカレーを

冷たくして冷や飯にかけて食べるようなものである。

会社や雑誌に必要な栄養補給とは。_b0141773_21151437.jpg

海に潜ってなにをするのか、

それがどんなに楽しいかは、

人の考えや意見によって教えられる。

会社や雑誌に必要な栄養補給とは。_b0141773_21251357.jpg

それができない雑誌は、

読者にとっては魅力のないものであり、

存在価値のないものである。

会社や雑誌に必要な栄養補給とは。_b0141773_20590649.jpg

スキャンダルで売っている雑誌も、

いずれは廃刊の日がくる。

会社や雑誌に必要な栄養補給とは。_b0141773_21181318.jpg

人間には栄養、エネルギーの補給に加えて、

「楽しさ」または「心の栄養」の補給が必要。

経済雑誌も健康雑誌も、食生活雑誌も、

この法則からは逃れられない。

『マリンダイビング』よさようなら。

水中造形センターよ、さようなら。

そして、もう一度……

「舘石さん、いろいろとありがとうございます」

会社や雑誌に必要な栄養補給とは。_b0141773_21180350.jpg


by rocky-road | 2021-08-17 21:18 | マリンダイビング  

<< フォトブック作家、誕生。 大桟橋でお会いしましょう。 >>