「待ってました!!」

「自由テーマによる講話」の演習であった。
(12月20日⦅日⦆横浜市技能文化会館)
この演習を振り返っておこう。

事前にお伝えしておいた課題は、以下のとおり。
1.課題 「自由テーマによる講話」
講座受講の方々を対象とする、有効なお話。
「健康」「栄養士」の隠しテーマがあることが望ましい。
2.テキストはA4用紙1枚(厳守)
時間内に収めるのには、柱(項目)は2本~3本が限度。
テキストを30枚(全員分)、各自でコピーして、
当日、全員に配布。
3.その日の講話の導入になるイントロクエスチョンを
3問、テキストのトップに配してください。
3問中1問は「笑える」クエスチョンを試みてください。
4.講話時間、お1人 20分以内。

大橋のオリジナルで、聴衆の気分をほぐしたり、
講話や講演を聞く心の準備をしていただくのが目的。
みんなが答えられる内容であること、
「正解」「不正解」を問うのではなく、
「同意するものに『〇』を、同意しないものに『×を」
のように、相手の意志を尊重した聞き方をすること、
などが注意点。

たとえば、栄養士に好ましい食事相談のスキルを
伝えるセミナーであれば、
イントロクエスチョンはこんな具合。
1.( )食事相談の目的は、正しい食事法を
知ってもらうことだから、栄養士自身、
「食事の栄養バランス」を保つ指針を
実行していることが望ましい。
2.( )上から目線の話し方にならないように、
椅子は相手より30センチよりも低いものを選んで
座るようにしたい。
3.( )相手の状況を把握することなく、
最初から「教えてあげよう」という姿勢で
食事相談に臨むのは好ましくない。

講演などでは5問~8問程度を用意し(持ち時間による)、
1つ1つについて「〇と思う方、お手をあげてください」
などと聞いて、そこで設問の意図を話す。
大事なのは、その日の受講者の属性(男女比や年代、職業)
などによって、よりふさわしい問題を考えること。
ちなみに、上記のイントロクエスチョンの回答は、
1「×」 2「×」 3「〇」

「1」は「食事相談の目的は、正しい食事法を
知ってもらうことだから」の部分が不適。
食事相談の目的はそのつど異なる。
「正しい食事法を知ってもらう」ことが目的とは限らない。
後半の「『食事の栄養バランス』を保つ指針を
実行していることが望ましい」という部分は
そのとおりだからOK。
前半と後半をねじらせた、ひっかけ問題。
設問に多少、ワザがいる。

「2」は、いうまでもない。物理的高さの問題ではなく、
心理的な、またはマナーとしての高低差の問題。
「3」は、もちろん「〇」。
今回は講話のスキル以前の問題ながら、
テーマの決め方と、
テキスト作りのほうにポイントを置いた。
一般には、「テキスト」のことを「レジュメ」と
誤って使っている場合が多い。

「レジュメ」(résumé)はフランス語で
「要旨」や「要約」のこと。
履歴書を指したり、
会議やイベントの要旨を事前に示すものであったり、
プレゼンテーションや講演を
事前または事後に伝える内容の要約であったり。

発表された8名の講話のタイトルは以下のとおり。
*「3実」
*「ある老人ホームから見る長生きの秘訣。」
*「白Tシャツにジーンズの似合う女性になる。」
*「障がい福祉 食サポートの立場から。
--それぞれの『健康のカタチ』を導くために--」
*「クライアントの立場からもっと楽しむ5つの提案。」
*「特定保健指導のクライアントのライフスタイルと健康。」
*「栄養士のための『家島』の歩き方。」
*「マッチングアプリの写真から見える男性の健康度。」
*「病院栄養士が訪問食事相談に行く。
--ネコと生活を続けたいAさんをサポートして--」

1日目の発表者全員のテキストのタイトルに
句点(「。」)があるのがおもしろい。
けっして指示したわけでもないのに。
影山さんや大橋の影響と思われるが、
世間では、タイトルに「。」を入れないのが一般的だから、
ときに「変な表記法!」と、
首を傾げられることがあるかも。

テキストの話に戻ろう。
講義や講演の現場で使うペーパーを
「テキスト」という人はどれくらいいるのか、
他のことはわからないが、
私は約30年前の、大学の非常勤講師時代から今日まで、
学生や受講者、塾生に当日配布するものを
「テキスト」と呼んで、その方式を踏襲している。
レジュメとテキストとは目的も形式も違う。
パワーポイントをコピーしたものを「レジュメ」と称し、
それを当日も使う講師が多いが、こんなのは問題外。

講話・講演に使うテキストは、
それ自体が1つの独立した「作品」と心得る。
そもそも講義というものも、
その日、その時のパフォーマンス作品である。
「またこの次」はない。一発勝負である。
だからこそ、時間をかけてじっくりと作る。
私の場合、講義の予定日の数か月前、
講演なら依頼を受けた数日後からテキストづくりに着手し、
1年~数日前まで、制作を続ける。
あるテーマについて、
だれよりも長く、
だれよりも深く考えたという自負が生まれるので、
自信をもって講義ができる。

講話、講演のウマい・ヘタのチェックポイントは多々あるが、
私の場合、テキストも大きな評価点になる。
用紙の厚さ、サイズ、紙面のデザイン、
タイトルのつけ方、全体の構成、分量、綴じ方など。
テキストを見れば、
その講師の力量は数秒でわかる。

ときに、「内容を盗まれるから」といって、
テキストには、ちょっとしたキーワードしか
書かない講師がいるが、
こんな講師は、貧弱なアイディアしかないからこそ
それを守りたがるのである。

テキストは「作品」だから、
それがどこへ持っていかれようと、
オリジナリティはビクともしない。
どう利用されようが、
自分のような説明はできるはずもない。

そういうことを学んでいただきたいので、
「食コーチング 養成講座」では、
テキストづくり、プリントや配布の方法まで、
実体験していただいた。
A4、1枚だけのテキストながら、
準備性が歴然と出た。

どこでコピーしたのか、
平安時代の古文書のような薄いインクのものから、
私のテキストだったかと錯覚するほど
大橋流のデザインであったり。
これから講演の機会がふえるはずの人が、
こういうテキストづくりを経験しておくことの意味を強く感じた。
講演は、日本人またはアジア人の苦手スキル。
明治維新まで、
このような形式の「1人しゃべり」(司馬遼太郎さんのコトバ)は
日本にはなかった。
あえて探せば、
禅宗の法話をするめために
トレーニングを受けた僧侶(俗に「説教坊主」)が
全国に派遣されていた、ということくらいか。(司馬説)

福沢諭吉が「スピーチ」を「演説」と訳して以来、
「1人しゃべり」文化が始まった。
それからようやく150年、
民主主義時代から数えれば、わずか75年。
まだまだ「これから」である。
だからこそ、スキルアップをしたい。

それをするのが
政治家でも学者でも、教員でもなく、
栄養士であり、健康支援者であることに
なんの不都合もない。
さあ、「待ってました、栄養士!!!」
(講演会では、こういう掛け声はかけないこと)
by rocky-road | 2020-12-27 23:43 | 食コーチング師養成講座