あなたがいま燃えているものは?
遠距離クラスの第48回が終わった。
(10月4日、横浜・技能文化会館)
ロッコム文章・編集塾は
毎月、数クラスを開講しているが、
遠距離の方、毎月参加がムリな方を対象に、
3か月に1回の割合で
1日研修の教室を開いている。
このクラスは、
2008年9月の開講して12年目になる。
今回の講義は
「思考と発想力をシステム化する。」
ものを考える最良の場所として、
中国の欧陽脩(1007~1072年)は
「三上」をすすめたと伝えられる。
「馬の上」「枕の上」「トイレの中」(厠上/しじょう)
1000年前でも、
モノを考えるには
やはり人との「密」を避けて
静かに集中したほうがよい、
と考えていたところがおもしろい。
1000年後の現在、
思考法はさらに進化して、
「創造的集団思考法」
つまり「ブレーンストーミング」に至った。
アメリカ人、A・F・オズボーンの考案だという。
是が非でもアイディアをひねり出そうという、
超・積極的思考法である。
これに比べると「三上」方式はいかにものどか。
もっとも、日本人は、
「ブレスト」方式は苦手のようで、
自分でも雑誌の企画会議などで試みたが、
トントンと発言が出てこない。
レストランを借りて、
アルコール飲料も「あり」でやってみたが、
結果は同じである。
幼いときからディベートなどによって
討論する基礎トレーニングをしておかないと、
いきなりブレストをやっても、
アイディアがあふれ出すどころか、
シーンと静寂だけがあふれ出す。
なんとも息苦しい困惑の場面になる。
「食ジム」は、目的も方法も異なるものの、
「ブレスト」に近い形式になっている。
日本にブレストを定着させるには、
この「食ジム」形式を経験するとよい。
「頭がよい」とはどういうことか、
それは、定義によって意味が大きく変わるが、
少なくとも「思考力」や「発想力」は、
かならずしも頭の良し悪しには左右されない。
けっきょくのところ、システムとトレーニングである。
思考力や発想力は天性のものとか、
素質であるとかとはいえない。
そのことを認識するのが
今回の講義の目的であった。
この講義の過程で、
またまた新しい難題に気がついた。
思考力や発想力はシステム化によって
ある程度は強化できるが、
では、生きるエネルギー、生きがいを感じる情念、
社会参加を助長する情緒は、
システムによって強化できるのか。
知性と同じように、
感性もコトバで磨けるのか。
新聞や雑誌を開くと、
「捨てることのすすめ」とか、
「がんばらなくていい」とか、
「終活」とか、
健康寿命の延伸を迷惑に思っているのではないか、
と思えるような提案が少なくない。
また、塾生に
「人は(私は)なぜ生きるのか」という
エッセイを書くように課題すると、
反省や是正点の記述が中心であったり、
モチベーションの低い青春時代を
振り返ったりする文章が少なからずある。
こういう状況を見ると、
現代は、生きるエネルギー、
つまり将来への展望や、野心や野望、
3日や1週間にも及ぶ感動や興奮が
ほとんどないことがわかる。
その結果、コロナ感染を恐れることを
最大のモチベーションにして
生きている人が少なくない。
もともと、すべての人が目標をもち、
生きがいを見い出すというのはムリな話で、
だからこそ、古来、
集落ごとに、地域ごとに、
国ごとに目標を設定して
それを共有することで、
自分の方向を考えることができた。
最高のモチベーションは「お国のため」だったが、
通信機器の発達のおかげで、
国の中で「内輪の話」ができなくなってしまった。
人の国の子や人をさらったまま
まったく返えそうもしない国を「とっちめよう」とか
わが国の領海を、物ほしそうにウロウロする
某国の船を「叩きのめしてやろう」とかと、
国のリーダーが口にできなくなった。
「ほしかりません勝つまでは!」
「一億火の玉」
「米英鬼畜」
そういうスローガンによってまとまれることは、
一般大衆にとっては、生きる目標を設定しやすかった。
いやいや、いまだって、
「go to travel!」や
「go to eat!」などのスローガンで
多くの人が小さな生きがいを見い出している。
しかし、人生の目標を
「go to travel」にするわけにもいかない。
もっと内面から燃えるものがほしい。
情熱をかき立てるシステム、
情念を燃やすシステムとはなにか。
かつて、フランス文学者の桑原武夫氏が、
司馬遼太郎氏との対談で、
「感情の論理学」という概念があることを語っている。
フランスの心理学者が使ったコトバだとか。
さて、
わが《ロッコム文章・編集塾》で、
これをテーマにすることができるのか。
「それって、文章の問題? 編集のテーマ?」
というなかれ。
文章も編集も、
感情やスキル、理念や思想を伝える道具である。
いやその前に、
論理的にモノを考える道具、そのものである。
目的のない橋や鉄道がないように、
伝えたい内容のない文章も編集もありえない。
わがロッコム文章・編集塾は、
「がんばらなくていい」なんていわないし、
「捨てること」を急がない。
「終活」なんて無意味なことをせず、
まだまだ「習活」(学ぶ活動)を続ける。
みなさんが持ってきてくださった
新刊『栄養士のための ライフデザインブック』に関して
編者と監修者によるサイン会になった。
ありがとう。
by rocky-road | 2020-10-08 18:06 | 大橋禄郎 文章教室