働き盛りの男はトマトが大好き。
2か月のブランクののちに3か月ぶりに再開した。
(第1回 3月21日/第2回 6月28日)
今回のテーマは
「多くの食事法は、なぜ普及・定着しないのか。」
(横浜市技能文化会館)
「ヒトは、コトバを獲得する以前から、
食品や食事についてなんらかの指針を
もっていたはずである」
という話から始め、
今日、われわれが使っている食事法までの
歴史を振り返った。
20万年以前のホモサピエンスもネアンデルタールも
食べると死ぬもの、苦しむもの、
場合によっては体調をよくするものを知ると、
それを子供や家族や仲間に、
なんらかの方法で伝えてきたと思われる。
いま、われわれが地球上に存在しているのは、
こうした暗黙の指針(コトバ以外の伝達方法)のおかげ、
と考えて間違いはないだろう。
そして現在の食事指針は、
医学的、栄養学的な観点から考えられた食事法である。
昭和から令和まで、
プロやセミプロによって
いろいろの食事法が考案され、
いまもときどき個人的な提案がなされている。
しかし、その割には、
それらをベースにして健康増進を図っている人は少ない。
それはなぜなのか、
というのが今回のテーマである。
「使う必要を感じない」ということなのだろうが、
半面、「必要を感じさせない」という事情もある。
食事法の場合は、
多分に後者の要素が大きい。
「ニーズは見つけるものではなく、つくるものである」
といった人がいるとか。
自分がやっていないことを人に説くなどということは、
どだいムリな話。
受講していただいた方の気配から、
「夫や家族にも説明していない」
ということが推察できた。
その場面で、
こんな質問も出た。
「夫や子供がいない栄養士の場合、
どのように周囲の人に影響を与えればいいのですか」
そんなこと、知ったことか!!!
相手がいようがいまいが、
まずは自分の健康を支える食事の指針、
「食の地図」を持つこと。
栄養士が得意とする「食事の栄養バランス」とは、
要は「なにを、どれだけ食べるか」の指針を
もって実践することにほかならない。
それなくして人に「栄養バランス」を説くことなど
できないはずである。
常時1人でとっている栄養士がどれくらいいるか、
実態はわからないが、
そういう寂しい事例は別の問題として、
同席する人がいれば、
「きょうは、第3群が足りないかな?」と
つぶやくことはできる。
「なに? 第3群って……」
「あっ、失礼……それって、
野菜やお芋やくだもののこと、
野菜は1日に350gとるようにしているの」
私は50年間、この方法でつぶやいて、
スノーケリングクラブの仲間たちの
「食の教養」を高めてきた。
これは「指導」や「教育」ではなく、
インプリンティング(刷り込み)である。
感覚や知識の伝え方として、
もっとも効果的で、もっとも低コストで、
もっとも持続的なのは刷り込みである。
ひな鳥は、親を追尾することで、
歩き方、食べ方、飛び方を身につけ、
それを一生忘れることはない。
それもまた、一種の「感染」である。
ファッションセンスや食行動のセンスなども、
雑誌やテレビからだけで磨くのには限界がある。
やはり身近にモデルとなる人がいて、
その人から「感染」するかのように
刷り込まれるのがいちばんである。
7月7日の『読売新聞』によると、
政府は、生活習慣病や認知症の予防を目的に、
数千人を対象とする実態調査に着手するという。
調査に当たる人は、
たぶん、自らが
食事指針をもって生活をしていないだろうから、
調査項目を作るのに苦労することだろう。
調査の軸となる「物差し」をもっておらず、
これから作ろうということになる。
「四群点数法」という物差しを当てて調べれば、
すぐに実態が見えてくるはず。
そういう栄養効果中心の考え方にすら終始せず、
食事の時刻の決め方、
朝・昼・夕、各1回の食事にかける時間、
同席者の有無、箸や茶わんの購入者、
それら食器へのこだわり、
一緒に飲む飲み物、各食事で重視すること……
などについても聞くことになるだろう。
認知症予防は、そうした食行動との関係も大きい。
1日3回の食行動は、
ライフスタイルを大きく反映するものだし、
ライフスタイルの基盤ともなる。
そう考えると、
いまや「栄養学」や「栄養士」という名称が
中身を包み切れない包装紙に
なってきていることを痛感する。
「食生態学」(昔、提唱する学者はいた)
などという分野が確立されていればよいが、
まだそこまでいっていない以上、
栄養学や栄養士がそこをカバーするしかない。
どんなに守備範囲が広がるにしても、
「食の地図」または「食の物差し」は
自分のため、人のため、社会のために
不可欠のもの。
その食事法の詳細には入り込まずに、
その必要性だけを強調した。
講義の前に、
事前に出題しておいた課題、
「現役ビジネスマン(男性20~50歳)を対象に
ある食品について魅力的に語ってください」について
当日、全員にプレゼンテーションをしていただいた。
予想どおり、または懸念したとおり、
対象者をイメージすることなく、
食品のほうに軸足を置いて語る人がほとんどだった。
トマト(ミニも含む)を選んだ人が6人、
牛乳(乳製品)が4人、卵が3人、
米(ご飯)が3人、レモンが2人、
その他、もやし、パプリカ、バナナ、大根など。
動物性食品は、牛乳、卵以外には
カツオ、アユが各1人。
全体として、いかにも女性好み。
「トマトはペルーを原産地とする……」
そういう話が
働き盛りの男性にとってどういう意味を持つのか、
ニーズを考えないから、
そういうことになる。
あとで聞けば、自分が選んだ食品が、
ほかの人と「カブラナイ」
ようにと気をつかったという。
そこに誤算がある。
食品がカブったとしても、
そんなことは大きな問題ではない。
対象者がだれか、
対象者がどういう話に関心を示すか、
そこを真っ先に想定して、
テーマを決めるべきである。
ターゲットに照準を合わせることなく
狙い撃ちなどできるわけがない。
その程度の準備性のまま、
講話や講演の依頼を受けて、
それぞれの対象者に合ったテーマや話し方で
魅力的な話などできるわけがない。
「先に食品あり」「先に栄養的価値があり」
という話ではない。
対象者に向いた話をつくらないから、
「栄養士の話はみんな同じ、似たようなもの」
といわれるのである。
まずは対象者、
次に、それに合ったテーマ、
そののちに食品が出てくる。
講座の初期の段階で、
そのことを体験できたとすれば、
まだ夢と希望はありそうだ。
ここは講座のポイントの1つになるだろう。
by rocky-road | 2020-07-08 22:51 | 食コーチング