コロナのおみやげ話。
4月の予定が延期になったので、
受講者に、メール形式の課外講話を送信した。
このところ、「食事で免疫力を上げよう」という、
いわば便乗型食事学を説く本が
出始めたという事例をあげ、
その「にわか振り」のおかしさを指摘した。
そもそも「免疫」とは何か、
という国語的解釈についても触れた。
栄養士としては、
「免疫力を高める食事法を教えてください」
という質問があるかもしれないから、
心と情報の準備をしておいたほうがよい、
というお話をした。
もしくは「よい答え方」があったら、
講師まで提案していただきたい、と結んだ。
世間もそれなりに対策を講じている。
NHKはさっそく「ためしてガッテン」の
スポットで、ビタミンDを含む食品、
キノコや魚をとるとよい、とやっていた。
栄養士向けの専門誌までが、
「栄養のチカラで、難局を乗り切る」と
アピールする始末。
栄養士の現場では、
コロナ対策の相談があると言う。
それに対して、
どんな回答例をしているか、それも耳に入った。
普段から注意すること、
そして運動不足にならないようにすること、
こうした小さなことの積み重ねが、
免疫力アップにつながります」
いつもとはちょっと違う食シーンを
楽しみましょう」
ウォーキングをするとか、
できることから取り組んでみてはいかがでしょうか」
この程度のアドバイスなら、
なにも栄養士に聞かなくても、
100人の一般主婦に聞けば、
同じようなアドバイスをしてくれるだろう。
ということは、
栄養学も栄養士も、
そして「ためしてガッテン」も、
コロナウイルスの感染症には
確かな対策を示しえない、ということである。
専門家の専門家たるゆえんは、
自分の研究分野ではないことを
はっきりと言うことである。
栄養学のテーマとはなっていません」
あわてて食べてみたところで、
感染症の対策にはなりません」
そうではあるけれど、
それを言っちゃあ、身も蓋もない。
相手のニーズにどう応えるか、
これは栄養学の問題ではなく
渡る世間の問題である。
手ぶらで返しては申しわけないし、
健康支援者としての責任も果たしえない。
メンツもあるし……。
ここはやはり問いかけてみたい。
「外出を自粛して、3密を守っていて、
それでもコロナが心配なのはなぜですか」
「昔はミカンを食べると風邪を引かない、
とか、柿が赤くなると医者が青くなる、
とかということわざがありましたが、
あなたの知っている食べ物のことわざ、
なにかありますか」
行先は無数にあるコースから
相手や時と場合にジャストタイミングのものを選ぶ。
1.コロナ感染を予防するための日常行動の振り返り
(起床から就寝まで)。
2.基礎体力とはなにか、フレイルとはなにか。
3.フードファディズムとはなにか。
4.栄養のバランスとはなにか。
5.健康寿命が長い人の特徴とは。
6.最近はコロナ感染のルートを
示しきれなくなっているけれど、
考えられるケースを20個、あげるとすれば……。
7.ライフスタイルの意味は?
8.人が生きる意味は何か。
などなど。
健康についての考え方の筋道を示してあげること、
健康の6大要素を確認すること、
論理的なものの見方、考え方を試みること……
などである。
コロナ感染対策効果は絶対ではないにしろ、
無用な不安や退屈を抑止する意味はあるだろう。
ここもチェックしておいたほうがよい。
「行動変容」という用語、
なんともこなれの悪い、ヘタクソな造語である。
国語力の貧弱な専門家が考え出した
訳語か造語かであって、
明らかに失敗用語である。
第1に、いかにも上から目線。
日本語的には「名詞」であるが、
中国語的には「動詞」、「変えること」である。
変えるのは自分自身ではなく、
この場合、ほとんどが他者である。
つまりAがBの行動を「変えさせる」のである。
対象となるのは患者である。
では、どう変えるか。
それはケースバイケース、
治療者が患者の状況を見て、
「この部分を変えさせよう」とする。
よく言えばフレキシブル、
悪く言えば抽象的すぎるコトバ。
したがって、
患者自身が「私は行動変容をしよう」
とは絶対に言わない。
そんな硬い表現をせずに、
「会社、休もう」
「旅行、キャンセルしよう」
「きょうから11時には寝よう」
「いまのうちに文学全集、読み切ってやろう」
と、具体的に思ったり言ったりする。
社会にばらまいて「行動変容しましょう」
と言っても、現実感が伝わらない。
「起床から就寝まで、いつもの行動パターンを変えましょう」
「公共交通機関は使わないことに」
「勤務体制を日、時間、場所、方法の面から見直そう」
「買い物は3日に1回、買い物時間は30分以内に」
のように。
普段から箇条書きの表現法をトレーニングしていれば、
こういう指針の50項目くらいは半日で書けるはず。
外出自粛については、
ふだん、「孤独のすすめ」だの
「極上の孤独」だのと言っている作家や雑文家が
ここでひと肌脱がずに何をしとるのか。
柄でもない本を書いているヒマはないはず。
自粛中にできることをカレンダー式に
30日分、60日分に示すとか、
冊子にして出版するとか。
「孤独を楽しむ60日 アクション日記」
なんていうコロナ自粛ダイアリーなら、
アンチ孤独派にだって書けるぞよ。
by rocky-road | 2020-05-03 23:56 | 新型コロナウィルス