公共放送の日本語力。
NHKテレビの実況放送で見ていたら、
原稿のない、フリートークをするときの
アナウンサーの日本語力の弱さを
改めて実感した。
両陛下を沿道でお迎えする人たちは、
事前に手荷物検査を受けて
沿道の歓迎スペースに入ることになるのだが、
これを実況する女子アナは、
「ここをくぐり抜けた人だけが中に入れるのです」
というような説明をしていた。
「くぐり抜ける」とはなんだ?
『広辞苑』では、「①くぐって通り抜ける。
②危険や困難な事情をうまく処理して
生き延びる」としている。
沿道に小さなトンネルなどないから、
ここでは②の意味。
手荷物検査をくぐり抜けるという場合、
今日の意味では、
物騒な目的を持った者(たとえばテロリスト)が
警察のチェックを巧妙に突破する……
などということになるだろう。
祝賀パレードを祝う人たちに対して
なんと場違いな表現をするのだろう。
このレポートに続いて、女子アナは
沿道の人たちの声を拾うのだが、
このときには、
「〇〇県から来たという40代の女性は……」
「〇○県から来たという家族は……」
と紹介する。
「来た」は、いかにも粗雑。
なぜ「……いらした」というコトバが
さっと出てこないのだろうか。
その前日、夕方の天気予報では、
女性の予報士が「あしたパレードを
見に行く人もいると思いますが、
あしたは絶好のパレード日和です」と。
気象予報士に限らず、アナウンサーも
しばしば視聴者に対して
「……する人もいると思う」と表現する。
せめて「人」を「方」に、
「いる」を「いらっしゃる」のように、
ていねい表現ができないものか。
さて、パレードが通り過ぎたあと、
沿道の人たちから感動の声を求めるのだが、
ここでもマイクを向ける女子アナは、
「お2人の表情を見ることができましたか」と
「見る」を連発する。
せめて「ご覧になれましたか」と言えないのか。
むしろ沿道の人のほうが
整ったていねい表現をしていた。
「お姿を拝見して、来てよかったと思います」
「お2人のお姿をしっかり拝見できました」
小学生さえ「お姿をこの目に焼きつけました」と。
沿道と二元中継をする
スタジオでの男性アナウンサーのほうは、
(皇后さまは)「左右の沿道にいる人たちに
手を振られて……」と、伝える。
「沿道にいる」はないだろう。
「いらっしゃる」が使いにくいのなら、
いっそ「いる」を省いて、
「沿道でお祝いする方々(または「人たち」)に……」
「手」は「お手」が柔らかい。
こういうイベントは、
しばしばあることではないから、
放送関係者のほとんどが初体験だろうが、
この種のイベントについては、
こういう認識をしていただきたい。
すなわち、沿道に集う人たちは、
祝賀行事に自由意思で参加した、いわばゲスト。
事件や事故に集まった野次馬とは意味が違う。
NHKが主催したイベントではなく、
宮内省が行なう行事である。
とすれば、
そこに集う人たちは他者が招いたゲスト。
となれば、一定の敬意が求められる。
なおかつ、その多くは、
NHKから情報を有料で買っているお得意さんである。
だから、それなりの配慮をもって語りかけるべきだが、
エリート意識の強いNHK職員には、
そういうセンスはない。
今回の放送を聞いていてわかったのは、
皇族に対する敬語は、
動詞に「れる・られる」をつけるパターンに
統一しているらしいこと。
「れる・られる」は、
ていねい表現として、敬意の低いカタチ。
「笑われる」「乗られる」(手を)「振られる」
これを「お笑いになる」「お乗りになる」
(手を)「お振りになる」とすると
ずっと敬意も親しみも増す。
NHKの感覚では、
動詞に「お」をつけて「なる」で結ぶカタチは、
敬意過剰と感じるのかもしれない。
(お話になる)
あるいは、現場のアナウンサーに
いろいろの敬意表現を指導しにくいので、
マニュアル的に
とりあえず「れる・られる」をつけろ、となったのか。
しかし、言語表現は、
時と場合で臨機応変に対応しないと
窮屈で単調、心の通わないものになる。
NHKは、
かつての「賢くも天皇陛下にあらせられましては……」
のような表現に近づくのを恐れるあまり、
幅が狭くて抑揚のない、非個性的な表現を、
有料で日本中に広めている、
というのが現状であろう。
ふだん、人を心から敬う生活に不慣れな人が
過半数を占めるであろう公共放送局のこと、
そのことによる悪しき環境づくりに
自分が加担していることなど、
思いもよらないことであろう。
天皇であれ、総理大臣であれ、
外国からの来賓であれ、
そして、あしたの天気を気にしている視聴者であれ、
人に対する敬意表現を狭めることは、
国民の情緒を低下させ、
品位や民度を下げることにつながる。
その可能性を認識させる職員教育や
局内の環境づくりの策はあるのか。
このケースも
「NHKから国民を守る」テーマになる。
公共放送局の品位は
内部からは改善される可能性は少ない。
とすれば、
受信者のアピールは、
なにかにつけて必要となる。
ちなみに、新聞のテレビ、ラジオ欄には、
各局の窓口となる電話番号が載っている。
by rocky-road | 2019-11-16 21:55