話し合って、はいジャンプ!!
と題するセミナーが終わった。
広島の栄養士の有志が始めた
コミュニケーション研究会も
この7月21日で5年目・第5クールの、
その4回目の講義が終わった。
今回は、福山城のすぐ下にある
福山福寿会館。
こういう由緒のある会場で講義ができる
わが身の幸福を感じる。
当日、和室広間では、
「日韓トップ囲碁対局・鞆(とも)」なるものが
行なわれていた。
私の講義は
「複数の人との話し合いに強くなるには……」
である。
日本人の会議下手は、
たぶん世界でもワーストランキングに入るだろう
(アジアの国々は同じようなものだろうが)。
民族性だの歴史的なものだのと言って
逃げに入らないで、
ここはトレーニング不足と認識し、
いまから50年以上はかけるつもりで
改革してゆく必要がある。
会議に入る前の段階として、
3人以上での話し合いがきちんとできるか、
という問題提起をした。
私的な、自然発生的な話し合いが
ちゃんとできるか。
井戸端会議であれ、
ランチタイムのおしゃべりであれ、
今度行く旅行の相談であれ、
方向性のない、
ただの時間つぶしの話し合いではなく、
そのときどきで、
「見えないテーマ」
「見えないプログラム」を見つけて、
ゆる~く、
その話題を転がしてゆくことができるか。
司会や座長はいない、
しかし、3人が3人、
そこでの「見えないプロクラム」に従って、
それをふくらませてゆく。
タイトルやプログラムがなくても、
バラケルことなく、
話を進めていけるか。
近所のだれかが、
バナナの皮を踏んで転んだとか、
息子がスマホ依存症状態だとか、
参院選の投票率が50%を割ったとか、
そういう話の1つ1つを着地させて
(芸人ふうに言えばオチを、
ある程度はつけて)
次へと進んでいけるのか。
日本人だって、
昔から「話、変わるけどさ……」と言って
テーマ変更を告知する会話術を持ってはいる。
が、全体としてはまとまりが悪い。
日常的に会話トレーニングをしていないから、
会議ともなると、ますます苦手意識が強くなる。
発言者がいつも決まってしまうのは、
発言者が悪いわけではなく、
発言をしない人が多過ぎるからだし、
そもそも議長や司会が未熟だから、
参加者の発言の整理や撹拌ができない。
杜氏が飯に酵母を混ぜるように、
話し合いも、話題をじょうずに撹拌しないと
それが全体に行きわたらなかったり
ダマになって固まってしまったりする。
今回、複数(3人以上)による話し合いの
たいせつさを説いたのは、
言語技術の向上のためという問題以上に、
話し合いは、
高度の思考のプロセスであるとともに、
創造のスキルであることを
認識していただきたいからである。
(3人寄れば文殊の知恵)
今回、時間がなくて
お話しできなかったが、
以下の話を書いておこう。
もう5年前になるが、
NHKテレビで、
ディズニー映画『ベイマックス』の
制作裏話を放送した。
このとき、
映画製作のスタッフが
合議(セッション)をするシーンが
いくつか出てきたが、
30~50人が集まっているのに
司会らしき人がおらず、
それでいながら、主人公の心理描写の仕方とか、
すでに出来上がっているシーンのチェックとか、
かなりデリケートな話を
みなが楽しそうに論じ合っていた。
これが、
会議慣れをしている人たちの話し合いなのかと、
強い印象を受けた。
こういう話し合いができるから、
人類で最初に
月に人を送ることができたのだろうし、
100年以上も世界のリーダーでいられるのだろうと思った。
以上が、
今回のセミナーに関する補足的な話である。
もう1つの話題は、
発表された宿題の回答を聞いていて、
みなさんの中には公的視点というものが
あまり定まっていないと感じられた、
ということである。
前回の3月に出題した宿題は、
「おしゃれの私的・公的意義について
できる限り簡潔を心がけて書いてください」
というもの。
これを全員に発表していただいた。
「おしゃれの公的意義」について、
こんな回答が多かった。
「仲間意識を持つことができる」
「おしゃれはマナーの一端である」
「ユニフォームを着ることで仕事モードに切り替える」
「社会参加意欲を維持する」などは、
まったく見当違いではないが、
個人が社会活動をするに当たっての意義の範囲であって、
社会側からの視点にはなっていない。
軸足が自分であり過ぎる。
「おしゃれの公的意義」という立場で書くならば、
こんなふうな表現になるだろう。
1.警察官や医師、看護師、客室乗務員、配達業の場合では
職種を明らかにするとともに、組織や同僚間の規律や秩序を保ったり、
利用者からの信頼や親近感を得たりするのに有効。
2.職場では整った服装によって
組織の品位を保ったり、
作業服などによって作業効率を高めたり、
セクションや仕事内容を
把握しやすくしたりする。
3.冠婚葬祭の服装では、
儀式の厳粛さや華やかさの効果を高める。
4.街やコミュニティの景観や環境を
美化することによって
人々の社会に対するケジメ感や愛着を強め、
それらによって心身の健康度をあげる。
なお、今回は前日の20日に福山に入り、
城周辺を下見したりした。
福山城は終戦直前に空襲で被災したため、
再建されたという。
その分、城としては真新しく、
燦然と輝いて見えた。
大いに楽しい小旅行であった。
by rocky-road | 2019-07-23 01:41 | 大橋禄郎 文章教室