栄養士は、認知症予防にどう貢献するか。

1月と6月の開催が恒例となっている、
パルマローザの
ブラッシュアップセミナー、
6月季の、大橋担当セミナーが終わった
(2019年6月9日)。
タイトルは
「人生100年時代だから、
食生活・健康支援、15のシフトポイント。」

「3大生活習慣病」といわれる
がん、心臓病、脳血管障害(現在は肺炎が3位)を、
ある程度は克服することができて、
平均寿命も健康寿命も延び続けている。

延び続けるのはうれしいが、
次に待っていたのが認知症である。
認知症は栄養障害ではないから(異説もあるが)、
栄養士の出番は少なくなるのか。

いやいや、
それどころか、
むしろ栄養士の存在理由は高くなる。

野球は9人のプレイヤーでするものだから、
右打ちバッターが出てきたら、
外野手3人で右側にシフトしなければならない。
かつての「王シフト」である。

日常茶飯事を通じて、
人々の認知機能を高めたり
認知機能の低下を遅らせたりするのは、
現状では、栄養士ほどの適任者はいない。
ここで求められるのが
栄養士による「認知症シフト」である。
「私はレフトが定位置だから……」
などとは言ってはいられない。

ところで、
「人生100年時代」とは言っても
現在、百寿者は約7万人というから、
平均寿命が100歳になる日がくるとしても、
10年や20年後というわけにはいかない。

ちなみに、私が生まれた
1936年(昭和11年)ごろの平均寿命は
男46.92歳、女49.63歳とあるから、
80余年で平均寿命が約1.8倍も伸びたことになる。
「人生50年時代」には、
平均寿命がそんなに延びることを
どれくらいの人が予想しただろう?

とすれば、今後の50年で、
平均寿命が100歳になる可能性を
否定し過ぎないほうがいいかもしれない。
もっとも、人生100年時代は
認知症の人が多い時代であることを意味する。

厚生労働省の計算によると、
2020年には、認知症の人が700万人になるそうで、
65歳以上の5人に1人が認知症になると見込んでいる。
栄養士に限らず、
健康支援者はこのことを念頭に置いて
今後、仕事をしていかなければならない。

今回のセミナーでは、
人生100年時代を迎えるに当たって、
栄養士や健康支援者が、
対象者とどう接し、どう支援すればよいか、
ということにポイントを置いてお話しした。
栄養状態をよくするのは当然として、
さらには認知機能を高めるところまで、
守備範囲を広げるときがきていることを強調した。

ここまでの日本人の平均寿命の延びは、
個々人の意識や努力以上に、
国や自治体、医療機関、地域・民間施設による
ヘルスプロモーション(健康促進活動)に
よるところが大きい。
もちろん、
それを可能にした地政学的な事情もあった。

いわゆる「平和ボケ」が許される戦後の日本社会では、
少なからずの国民は
「平和」を信仰の対象とし、
つまり願えば叶えられるものと信じ、
(本当の理由をあえて考えず)
「企業戦士」となって働き、
余ったエネルギーを「健康」に傾注することになった。
無責任なライターからは「健康ブームを問う」とか、
無責任な作家からは「健康という病」とかと
遠くのほうから冷笑されてもいる。

なんと言われようが、
健康長寿は、人からうしろ指を指されるような
やましい思想や行為ではない。
そのことを確認したうえで、
では、今後、健康支援者は
どういうスタンスで
食生活支援や健康支援をしてゆけばいいのか、
そのことについて
15のシフトポイントとして示した。

1.高齢長寿の意味を正しく理解する。
2.むしろ栄養士の守備範囲を正しく理解する
3.「利他行動」の意味を正しく理解すること。
など、以下、省く。

要約的に述べれば、
少なくとも健康支援者においては、
「健康」を思想として深め、
それとなく健康についての考え方を人に伝えてゆくこと。
その原則は、
(仕事以外のところでも)
積極的に、より長い間
社会参加することである。

家族、子や孫にとどまらず、
アカの他人と交わり続けて、
モチベーションを持続すること。
子や孫は20年もすれば自立してゆく。
おじいちゃん、おばあちゃんの認知症は
兆候が出ているかもしれない。

もちろん自発的であることが前提。
つまりは、
以前からの生きがい、
先週から始めた余暇活動に感じる生きがいなど、
あれやこれやの生きがいを持つことである。

そういう活動には、
創作性や協調性、貢献意欲が伴い、
社会的に有用な人材となる。
個人的には、
モチベーションの更新システムとなり、
健康を支える城となる。

自分の労力的、時間的、金銭的ロスを受け入れつつも
アカの他人を支える「利他行動」は、
生物学用語になる以前に
仏教用語「利他」として
関係者には使われており、
日本人は格言として
「情けは人のためならず」を知っている。

「思想としての健康」とは何かと言えば、
「情けは人のためならず」に尽きる。

健康は、
多様な人と交わることで強化されるものだから、
ヒトとしてのコミュニケーション力と、
人間としてのコミュニケーション力を
同時進行的に備え、強化していきたい。

「ヒト」としてのコミュニケーション力は
姿勢であり、表情であり、眼力であり、
フェロモンなどなどである。
肯定的な身体コミュニケーション力は、
それ自体が健康環境となって人類に資する。
寝ていても、クシャミの瞬間でも、
建設的な表情を保ってこそ
健康支援者のプロと言える。

「人間」としてのコミュニケーション力とは、
対面、非対面に適応した
記号・言語コミュニケーション力である。
対面、ミーティング、講話、講演、電話、
サイン、手話、手ぶり、Eメール、ハガキ、手紙など。

健康は、正確なコトバ、
温かいコトバ、伝わりやすいコトバで語りたい。
コミュニケーション嫌いは健康支援者としてはシンドイ。

いずれにしても、
栄養士による人生100年時代の健康支援は、
軸足を食と栄養に起きながらも、
コンパスを大きく開いて、
人々のモチベーションを高めること、
自身が生きた見本になることを
このセミナーで強調した。


たんぱく質やビタミン、
献立や外食について
有用なアドバイスをしてくれる栄養士が
旅行の収穫やゴルフの成績、
介護ボランティアでの出来事などを
問いかけることが多くなることは、
認知症の発症年齢を遅らせることになるだろう。

2020年を待つことなく、
栄養士は、からだの栄養補給と
心の栄養補給を促進するプロとして
活躍してゆくはずである。

by rocky-road | 2019-06-12 23:09 | パルマローザセミナー