「お笑い系作家」の孤独ジョーク。
作家にも「お笑い系」というタイプがあって、
大いに笑わせてくれる。
ちなみに「お笑い系作家」は、
ユーモア小説の作家とは違う。
ユーモア作家は
静かな語り口ながら
読者をにゃりと笑わせようと、
こちらの反応を読んで仕かけてくる。
クァレスキの『ドン・カミロの小さな世界』や
ジェロ―ム・K・ジェロームの『ボートの三人男』
北 杜夫の『ドクトル・マンボウ航海記』
山口 瞳の『江分利満氏の優雅な生活』
畑 正憲の『われら動物みな兄弟』
などには、
かつて大いに笑わせてもらった。
(以下、記憶による大意)
「目には眼力というものがあるから、
じっと見ていると、その部分になんらかの変化が生じる。
そのため、フランスのルーブル美術館には、
眼力によって名画から剥離する絵の具の粉を
チリ取りで掃き取る専門の係員がいる。
とくに剥離が多いのは裸体画の床である」と。
では、お笑い系作家とはどういうタイプか。
最近では、「孤独」を人にすすめて儲けている作家。
そのご仁が、新聞社が主催する講演会に登場するという。
いわく「孤独を楽しむ極意を語る」
先着500人、受講料1,800円也。
孤独を売りまくっている現実に、
思わず笑いがこみあげてくる。
孤独を人にすすめる人が、
500人もの人を集めてはいけないし、
そんな話を聞くために
孤独好きの人は、そんなところへ出かけてはいけない。
しきりに孤独をすすめている。
「〝孤独〟と〝孤立〟は違います」と言う。
では、『広辞苑』はどう定義しているか。
②仲間のないこと。ひとりぽっち。」
「孤立=他とかけはなれてそれだけであること。
ただひとりで助けのないこと。」
どこが違う? 同じようなものではないか。
さらに言う。
「孤独は、人と交わらないことではない。
でも、人と会うとき、
この人たちとは自分がどう違うのか、
それを確認するとよい」(大意)と。
なんていやな奴だろう。
仲間というのは心を開いて打ち解けるから
仲間意識が生まれるもの。
人を見て、自分の特徴を確認するような奴と
親しくなろう、などと思う者はいない。
したがって、
そんな奴は、確かに孤立して、孤独になる。
そういうのを「極意」というのか。
それにしても、
作家とは思えないほど、
コトバの使い方や解釈がラフである。
この作家、超多忙で、その理由を
近著『作家のおしごと』という本で公開している。
小説、作詞、講演会、対談、インタビュー、
連載、推薦文、解説、紀行文、ロシア文学。
とても孤独を楽しんでいる余裕などない。
念のために言うが、
1人でするデスクワークは孤独とは言わない。
読書をする状態を孤独とは言わない。
1人暮らしをしていても、
数百万のファンを持つ作家を孤独とは言わない。
1人旅も、1人での入浴も、
それだけでは孤独とは言わない。
この作家、なんでもこなすので、
孤独の経験など、ほとんどないはずである。
心配なのは、
そういう「思いつき孤独」「ご商売孤独」によって
ミスリードされる人がふえる可能性。
件の講演会に集まる人は、
孤独でないような気がする。
「知的孤独」(思考の対象とする)
「孤独ぶり愛好家」と言うべき人が
過半数を占めるのではないか。
ヘルスプロモーション(健康促進行動)の観点から言えば
孤独のすすめは、喫煙のすすめ、深酒のすすめ、
塩分多量摂取のすすめ、肥満のすすめ、
粗食のすすめなどと同じくらい、
反健康的、反社会的な誘導である。
各地域で、
健康寿命を延ばすために、
または認知症の発症を遅らせるために、
地域の人たちに
人と交流させたり、
頭を使わせたり、
運動量を増やしたり、
動物と過ごさせたりしている現状を
この作家は考えたことがあるだろうか。
しかし、このご仁は、
今後、ますます調子づいて
「孤独をすすめ」を拡散させるだろう。
こうした事例から学ぶべきは、
人は齢をとれば分別がつく、
見えないものが見えてくる、
などということはない、という事実である。
この作家、80歳代半ばという。
なのに、自他の区別がつかない。
毎日、執筆や講演の依頼があり、
生きている間には使いきれないほどの収入があり、
さすがに、「作家のおしごと」に
少々うんざりしている自分と、
身寄りがなく、天涯孤独の人や、
気質的に人と交われない人との区別がつかない。
これは高齢による認知機能の低下などではなく、
どんなに見当違いの思いつきであっても
そこそこ商売になることを
50余年の作家業によって刷り込んできた、
特異なキャラクターの思い上がり以外の何物でもない。
講演会の当日、
別の集まりがあって、会場に行けないのが残念。
いや、講演を聞く気などまったくない。
そうではなくて、
入場者を観察したい。
性別、年代、
連れ立ってくる人、
1人で来る人の割合、
表情などを観察したい。
主催者にお願いしたいのは、
入場者の「孤独度」「ライフスタイル」などを
推測できるアンケートの実施である。
いやいや、
ひょっとしたら、
そういう情報集めのための企画なのかもしれない。
by rocky-road | 2019-03-02 23:37