白い水仙と灯台の物語。
ある年の正月、
見知らぬ女性から絵ハガキが届いた。
そのハガキの写真は爪木崎である。
読むと、
私が連載中の雑誌に書いた
「白い爪木崎」という文章に共感して、
伊豆半島の先端にある爪木崎に来た、
いま、そこで絵ハガキを書いている、と。
『海の世界』という、その雑誌を読んだという。
船員向け、船好きの人向けの雑誌であった。
少し前置きをしておくと、
当時、私が所属していたスノーケリングクラブでは、
毎年、正月はどこかの海に出かけた。
爪木崎には何回か訪れている。
そこには灯台があって
海の中からそれを見るのは、
なかなかの風情であった。
もう1つの見どころは、
灯台の下の海岸に自生している水仙である。
正月前後のシーズンには開花し、
周辺を白い花と香りとで華やがせた。
連載記事は、そこを訪れたときの話である。
その年は開花が遅れていて、
私たちが灯台下で潜ったときには
まだほとんど開花していなかった。
旅から帰って数週間後、
弁当箱よりやや大きめの段ボール箱が届いた。
あけると水仙の花の部分約20センチのものが
20本ほど入っていた。
爪木崎の民宿の娘、小学6年生の弘美ちゃんが
水仙を摘んで送ってくれたのである。
当時は宅配便はなく、小包だった。
「おいでになったときは咲いていなくて
残念でした。
いまごろ、ようやく咲いたのでお送りします」
という手紙が入っていた。
水仙は、しおれてしまっていた。
しかし、コップに水を張って挿すと、
すぐに、あの水仙の表情になった。
写真に撮って、礼状と一緒に送った。
冗談に「今度は白い灯台を送ってください」
この話を読んだ、関西在住のK嬢が、
同地を訪れて、そこからハガキを書いてくれた。
当時は、版元に電話をすれば、
筆者の住所などあっさりと教えてくれた。
彼女は、私の住所と、
そこから絵ハガキを書くというプランを持って
「白い爪木崎」への旅に出た。
この連載は「ニッポン海底散歩」というシリーズで、
1回ごとに1か所の旅先をエッセイタッチで書いた。
1年12回の予定であったが、
継続の依頼をいただいて18回の連載となった。
これにも後日談があって、
宮城県在住の読者が、
私の全連載をコピーして
1冊の冊子にして送ってくれた。
自分の連載記事は、その1冊に収まって
いまも書棚の貴重資料となっている。
「白い爪木崎」のKさんとは、
いまも年賀状のやりとりが続いている。
そうか、
今年は新年早々、2回の水仙への旅が続いた。
(葛西臨海公園、千葉県岩井の富山=とみやま)
このブログに使った写真をプリントして、
Kさんに送ってあげることにしよう。
by rocky-road | 2019-01-14 22:01