ローマとヒロシマの物語。
≪コミュニケーション研究会 ひろしま≫が主催する
コミュニケーション力強化のためのセミナーは
5年目を迎え、年4回シリーズの1回目が始まった。
(2018年11月4日 広島県三原市)
今回は『一冊まるごと 渡部昇一』
(致知出版 2018年4月発行)
という本をテキストに使い、
渡部先生と塩野七生(ななみ)さんの対談部分を読んだ。
この対談ページのタイトルは
「『ローマ人の物語』に学ぶ将の条件」
「将」は「将軍」の将、
ここではリーダーのことである。
渡部昇一氏(わたなべ しょういち/
山形県鶴岡市生まれ。1930~2017年)は
上智大学文学部英文科を卒業後、
同大学の教授を長らく務めた学者であり著述家。
海外生活期間もあり、
学識が深く、腰の据わったリアリストでもあった。
私は1980年代から、氏の雑誌論文を愛読し続けている。
テキストに使った本は、
渡部氏が4人の学者や論客と行なった対談をまとめたもの。
1日で全部を読むのはムリなので、
今回は、塩野七生氏との対談部分。
(月刊誌『致知』の2008年2月号に
掲載されたものの再掲載分)
塩野さんが登場するページを選んだのは、
旧来の日本的、女性的な論法ではなく、
リアリティのある、切れ味のよい発言を
女性たちに知っていただきたいから。
塩野さんは、1937年、東京生まれ。
学習院大学文学部哲学科卒業。
イタリアのフィレンツェへ留学して以降、
イタリア関連の著作を続けている。
大作『ローマ人の物語』は、
1992年から年1冊のペースで発表し始め、
2006年に全15巻を完結した。
対談は、その2年後に行なわれたもの。
大作を書きあげたばかりだったので、
対談の冒頭、こんな発言をしている。
塩野 「長年2000年以上前の人たちとばかり
付き合ってきたから、
生きている人とお付き合いするのが下手になっちゃって、
うまく話せるかどうか心配ですが(笑)」
こういうジョークがさらっと出るところに
知性と大人を感じる。
一方、別のところでは、
『ローマ人の物語』には
戦争の叙述もしっかり描かれていることを
渡部先生から指摘されると、
こう応じている。
「もともとチャンチャンバラバラが大好きなので(笑)。
ローマの歴史というのは、大半は軍事の歴史ですよ。
ただ、その戦況の進展を示す図ですが、
司馬遼太郎先生は印刷までは
させていらっしゃらないようですね。
やはり戦争は悪だというのは私も賛成です。
しかし、もろもろの事情で、
仕方なく突入してしまう。
その時、名将が指揮した戦争は
味方の犠牲が少ないだけでなく、
敵の犠牲も少ないんですよね」
こういうことをさらっと言える人が
女性に限らず、日本にどれくらいいるのだろうか。
「戦争は絶対いけない」というところで
思考が止まってしまう、というより、
平和志向をポーズすることにすり替えてしまう人が
圧倒的多数のこの国では、
どうすれば戦争を防げるかを
理論的に考えることを放棄してしまう。
スポーツチームが強くなるには、
「メンタルとフィジカルが大事」という。
ここまでの思考はできても、
オールジャパンを強化するには何が必要か、
を考えようとしない。
うっかり考えると、
与党議員や公的立場の人の場合は
野党から吊るしあけられたり、
軟弱メディア(ほぼすべて)からは叩かれたりする。
これほど人為的に思考を止めてしまうと、
モノの道理も世の中の動きも見えなくなってしまう。
おバカに生きることを強要されるのは、
食事を与えられないのと同じくらい
人間にとっては辛いことである。
その辛さを忘れるには、
家の中でも食事中でも、
歩きながらでも、スマホをのぞき込んで
視線や思考を狭めないと、
ストレスを緩和できないのかもしれない。
きょうの新聞(11月13日 読売)には、
女性雑誌の広告が出ていたが、
著名な作家が
「誰にも邪魔されない『私の時間』」というテーマで
書いているか話しているのか、しているらしい。
特集は、その作家に「学ぶ」だとか。
邪魔の入らない「私の時間」が作れないなんて、
大人の言うことではない。
そんなことすらできないとは、
警察か税務署に尾行でもされているのか。
恥ずかしげもなく、
メディアでそういうことを公言する
女性作家の視野の狭さ、社会性のなさは、
「極上の孤独」を提案する作家にも通じる。
5歳のチコちゃんに叱ってほしい。
「ボーっと生きてんじゃねぇよ!」
そんなカマトト女性論者にはならないためには、
塩野さんのような、スケールの大きな論説に
触れておくことは意味があるだろう。
いや、バカ予防のためというよりも、
論理的思考のできる自分づくりのために、
2000年間、ローマ暮らしをしてきた
骨太の日本人から学ぶことは意味がある。
渡部/塩野対談では、
「知力」(インテリジェンス)の大切さを
しきりに語り合っている。
「知力」は「知識」ではないこと、
「知力のある人は他の人が見えないものが見えるんです」
などなど。
そして言う。
「日本のリーダーには(説得力が)
一番欠けているんではないでしょうか」
「なぜスピーチが大切かというと、
やっぱり人間はみんな希望を持ちたいんです」
(セネカ/ローマの哲学者)のコトバとして
「人間にとつて最後まで残るのは希望なんだと。
だから希望を与えること、つまり我々はやれるよ、
と思わせることがリーダーの
一番大切な仕事なんです」
さあ、人の健康を支える
健康支援者というリーダーとして、
知力をどう強化するか、説得力をどう磨くか、
希望をどう与えるか。
人の行動に「ダメ出し」しかできない人間には
縁のない話である。
1日セミナーの最中、
45分間休みを取って、
地元のお祭りを見物した。
主催者のスケジュールである。
夏の水害のため、予定していたお祭りが
11月4日に延期開催になったのだという。
邪魔がめいっぱい入る雑踏の、
なんと楽しいことか。
これぞ「極上の人混み」である。
ここでも知力は磨かれるのである。
by rocky-road | 2018-11-13 21:10