「編集力」を人生に生かす。

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2018年7月22日、

第39回めの遠距離クラスの講義は

『「編集力」を日々の生活にどう生かすか』であった。

(横浜市技能文化会館 11時~18時)

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このクラスでは、

各地から人が集まるので、

最初に全員から近況報告をしてもらうことにしている。

各地の気候やローカルな話題などが聞けるので

貴重な情報源となる。

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今回は、広島のお2人から、

大雨による大水害の報告に耳を傾けた。

被害情報というよりも、

保健師や栄養士などに対して

行政から、どういう要請があったか、

などを聞くことができた。

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また、地域の被害だけでなく

知人の被災などの困難もあったものの、

横浜でのセミナーや遠距離クラスへの出席は

予定どおり行なうことにした、

それが日常性の持続であり、

心の平静を保つことにもなる、

という報告もあった。

災害への対処の方法として、

傾聴すべき報告である。

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このあとの講義では、

「編集」について講じたが、

スピーチも1つの情報体であり、

ここにも「編集力」が役立つことを指摘した。

パソコンの普及は、

万人に編集力強化を求めることを意味するが、

編集は、プロの仕事と思われているのが現状。

この点では、

遠距離クラスでの講義や発言は、

編集とは何かを学び、

実践する数少ない機会となっているはずである。

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編集がらみで、

話題を以下のように広げよう。

去る7月18日、午前0時10分、

トランプ大統領とプーチン大統領の対談を

報じるラジオニュースの中で

担当アナウンサーが「世界の注目が注がれている」と

発言した。

「目が注がれている」ではなく

「注目が注がれている」と言ったのである。

私にしてみれば、「やったぁ!!」「やっちまったぁ!!」

という思う瞬間である。

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NHKは、ここ10年あまり、

「注目」というコトバを

「集める」というコトバとセットで使い続けている。

「注目される」ですむところを

あえて「注目」というコトバを使うときは

ほぼ90%は「注目を集める」と表現する。

言うまでもなく、「二重表現」である。

「重言」(じゅうげん)とも「重複表現」ともいう。

「二重表現」とは

「今現在」や「挙式をあげる」「必ず必要」「永遠に不滅」

「いまだに未解決」「外国人の方々」など、

同じ意味のコトバを重ねるもの。

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「注目」は読んで字の如しで、

「目を注ぐ」「目をそこに集める」こと。

「目を注ぐ」ことを「集める」とは、

「注目する人を多数集める」という意味ではなく、

「注目」の重複に加えて、誇張表現でもある。

NHKには2度ほど指摘したが、

まったく聞く耳を持たない。

ときには「大きな注目を集める」のように、

文法を無視した、意味のわからない放送をする。

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どうやら、なにかの意図があって、

この不適切かつ誇大、かつ低教養な表現を

日本中に広めようとしているらしく、

1日に数十回、

アナウンサーや解説員などが口にする。

その効果があってか、

新聞や雑誌にも、

この表現が普通に見られるようになった。

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これについて補足しておくと、

「注目」は、日本語では名詞だが、

漢語的には動詞である。

だから「注目」といっただけで

「目を注ぐ」「視線を1点に集める」という

動作を表わす。

わざわざ集めなくても、すでに「目が集まって」いる。

こういう動詞的名詞には、

「する」をつければ完結する。

「勉強する」「研究する」「奉仕する」「キャッチする」

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「注目を集める」の場合、

「関心を集める」「関心を寄せる」「注目を浴びる」

などがすでにあるから、

「注目を集める」もセーフではないか、

という弁解の余地はあるが、

分別のある人は使わないほうがよい。

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さらにまた、

「大きな注目を集める」が不自然に感じるのはなぜか。

「大きな」という連体詞は名詞を修飾することになっている。

「大きな目」「大きな雲」「大きな事件」などと。

「注目」は名詞だから、

連体詞の「大きな」を冠しても文法的には誤りではない。

しかし、動詞的ニュアンスを残している「注目」とは

相性がよくない。

「あの注目」「あらゆる注目」「いわゆる注目」という

表現法がしっくりしないように、

「大きな注目を集める」も、日本語として定着しにくい。

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動詞のニュアンスが残る

「接客」「調達」「施錠」などの名詞には、

「大きな」や「あの」「いわゆる」(連体詞)が

ぴったりとくっつかないものが少なくない。

「大きな接客」「あの調達」「いわゆる施錠」などと

表現することはまずない。

したがって、

「大きな注目」と言われると、

目が大きいのか、集まった目のあるスペースが大きいのか、

なんだか気味が悪くなる。

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ここで「編集」の話に戻るが、

ニュースは、言うまでもなく「編集物」。

すでにある情報素材を集めて、

順序よくまとめ、発信する、そこまでが仕事。

編集は、創作ではないから、

あまりに私的な思想や用語はしにくいが、

それでも流行語には

編集作業の結果、流布されるものが多い。

「忖度」や「モリカケ」などが一例。

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しかし、

受信料を取る公共放送としては、

国語を無神経にたるませてほしくはない。

そんな権限はないし、

慎重に国語を使う使命があるはず。

たとえば、

出演者に対して「きょうはありがとうございました」

と、あいさつするのは、僭越。

謝意は、あしたも残るのだから、

「ありがとうございました」と、

過去形にしてはいけない。

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「先日は、ありがとうございます」と、

過去の好意に対するお礼も、

「ました」にしないのが、

日本語の美しい表現。

番組がそろそろ終わることを

出演者に伝えるための「ありがとうございました」は、

放送局内部の事情であって、

それを日本語として定着させようとされては困る。

「きょうは、ご出演、ありがとうございます」でも、

なんら不都合はないはずである。

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同様に、動物の「熊」を

目の下にできる「くま」と同じアクセントにするのも

現状に即していない。

NHKは、アクセント辞典に則っているというが、

日本人の、現在の「熊」のアクセントに対応しているのか。

話が戻るが、

去る7月18日、午前0時10分の

トランプ大統領とプーチン大統領対談を

伝えるニュース。

「注目が注がれる」は、

正真正銘の二重表現だが、

驚くのが、このときのアナウンサーが、

U氏であったこと。

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すでにNHKを定年退職しているが、

いまもNHKニュースを、

手堅く、さわやかに読んでいる。

現役時代は「ことばおじさん」の別名がある、

コトバに通じたアナウンサー。

関連の著書もいくつかある。

そういう名アナウンサーが、

「注目が注がれています」とやってしまったのは

まさにニュースである。

そのときの雰囲気から判断して、

原稿をそのまま読んだのではなく、

アドリブ的な語尾ではなかったかと思う。

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その部分は、いわば未編集の、個人的ミス。

だから原稿を正確に読まなくてはいけないが、

もともと「注目を集める」は

放送記者の原稿だろうから、

ミスを生み出すお膳立てをしたのは記者のほう。

たぶんUアナウンサーは、

その表現に違和感を感じていて、

なんとか言い換えようと反射的に思い、

結果として、

「注目が注がれる」と、

恥の上塗りをしたのかもしれない。

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成熟社会とは、

人間を穏やかにする側面があるようで、

日本人の言語表現にもパンチがなくなった。

「……ていうか」(一発で決めろよ)

「正直、ヤバいと思った」(いつもは正直じゃないのか?)

「感動っていうのじゃないけれど、

けっこう泣きました」(それ、感動だろうが!!)

などという、ボヤけたコトバを使っていると

ボヤけた人生を送ることになりますぞ。


by rocky-road | 2018-07-25 00:10  

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