ホモ・サピエンスのモチベーション。

NHKスペシャル「人類誕生」の第2集
「最強のライバルとの出会い そして別れ」を
興味深く見た(5月13日)。
約20万年前に誕生したわれわれの祖先、
ホモ・サピエンスが
アフリカから中東に進出していったとき、
別種の人類ネアンデルタール人は
ユーラシア大陸へと進出していて、
そこで両者が出会った、という。

番組のタイトルでは
ネアンデルタールを「最強のライバル」としているが、
両人種が戦った結果、
ホモ・サピエンスが勝者になって、
今日まで生存し続けている、という話ではなく、
けっきょくは一部は融合し、
今日に至っている、という話である。

近年のゲノム研究によると、
われわれホモ・サピエンスの中にも、
10%程度、ネアンデルタールの遺伝子が入っているという。
鉄砲はもちろん、弓さえもない時代に、
一方の種が片方の種を、
地球上から絶滅させてしまう、などということはありえない。

しかし、ネアンデルタールという種は
アフリカからユーラシア大陸へと移っていったが、
その後の展開や進化はなく、
約4万年前(つい最近)に絶滅したという。
その大きな原因は、
気候変動に見舞われて生存しにくくなった
というのが主因のようである。
「最強のライバル」というのは、
ウケを狙ったネーミングであろう。

とはいえ、
ホモ・サピエンスとネアンデルタールの
ライフスタイルの違いが
生存条件に影響しているという説には
一理ありそうにも思えた。
番組によると、
ネアンデルタールはレスラーのような強靭な肉体に加えて
言語や信仰、装飾品などの文化を持っていたが、
比較的小単位のグループで生活していたらしく、
社会的発展に限度があった。

それに対してホモ・サピエンスは、
ネアンデルタールに比べると華奢で
大型動物を捕食する体力がなかった。
そこで小型動物を狙うほか、
やや大きい動物に対しては
狩猟道具(弓以前。ヤリをひもで遠くへ飛ばす)を
使って遠くから狙ったという。

くわしいことは番組に譲るとして(再放送は6月9日)、
ホモ・サピエンとネアンデルタールとの
興廃の理由の1つが
集団の大小、言い換えれば社会規模の大小にある、
という点には興味をもった。

この6月10日(日)に横浜で
「健康論としてのモチベーション」という演題で
講話をするために、
目下、テキスト作りの真っ最中という
タイミングであることと関係があるのだろう。

番組では、
バッファローやマンモス級の
大型動物に、10人以下のネアンデルタールが囲み、
全員同時ではなく、1人ずつヤリを打ち込むシーンを
何度か繰り返し、映した。
その勇猛果敢さがために、
逆襲されて、致命傷を負うなど、
かなりダメージを受けたとのこと。
遺跡にもその痕跡が残っているという。

「数は力」といわれるが、
ホモ・サピエンスの大きな集団は、
コミュニケーションの発達を促し、
行動を促すモチベーションを強化する、
という効果をもたらしたと想像できる。

みんなと協調するモチベーション、
みんなに迷惑をかけまいとするモチベーション、
人から感謝されたいと思うモチベーションなどなど、
のちにアブラハム・マズローが提起する
「5段階の欲求」(生理的、安全、連帯、自尊、自己実現)
などの欲求は、20万年前には、
すでに、わが祖先たちは持ち合わせていた。

考古学では証明しきれないだろうが、
ホモ・サピエンスとネアンデルタールとの
生存への可能性を分けたのは、
群れ行動から生まれる社会的、文化的モチベーションの
強さが大きく関係していると想像するのは楽しい。

そういう視点で一部の「断捨離」感染を見ると、
それは、モチベーションを刺激する要素を減らして、
いわば冬ごもりをするような境地なのだろう。
しかし、それは一次的な文化現象だから、
「断捨離サピエンス」は地球から消えてなくなる、
ということにはならない。

夢や希望、将来へのアクションプランを持たない心理状態は、
津波の前の引き潮のようなもので、
どんどん水が引いていき、
さらにさらに引いていき、
見たこともない海底の起伏までが見えるようになって、
それが終わったところから
大きな波が押し寄せてくる。

モチベーションは生物現象だから、
引いたモチベーションを埋めるべく、
次の衝動が起こってくるはずである。
それが本人にとって、
あるいは日本国にとってプラスになるのか、
マイナスになるのかはわからないが、
自らがネアンデルタールの道を選ぶとは思えない。

しかし、今後の20万年を予想すると、
いや200年で充分だろうが、
人口の多い国の人々が地球のあちこそに拡散していき、
それぞれの地域で融合するに違いない。

「人口圧」も「浸透圧」もけっきょくは物理現象で、
中国人もインド人もブラジル人も1つの固まりになる。
ホモサピエンとネアンデルタールがそうであったように、
戦ってどちらかがどちらかを絶滅させる可能性は小さく、
生物現象としては
数パーセントずつ、DNAを分け合って
地球上に生存し続けることだろう。





by rocky-road | 2018-05-22 23:27