食は薬ではない。食生活を見よ。
愛読しているオピニオン誌(一般には総合誌という)で
三流の栄養学論の連載が始まったのにはがっかりした。
天下国家を論ずる硬派の雑誌でも、
こと健康、こと食事の話となると、
がたんとレベルが下がって、
30年、40年前の、
かなり怪しい情報を「いかにも」という風で
記事にしたりする。
男性向け雑誌に共通する傾向である。
それはつまり、
編集者を含め、日本の男性の(いや、世界かな?)
「ヘルスリテラシー」(ここでは健康常識としておこう)の
低さを反映したものだろう。
連載のタイトルが
「大切なのは病気にならないこと」
というのが笑える。
そんなこと、当たり前過ぎるし、
そんな料簡で生きている奴は、
病気になる前に、
モチベーション不足で健康寿命を縮める。
病気にならないための人生、
健康を保つための人生を送っている健常者が
地球上にいるのだろうか。
豊川裕之先生(元東大衛生学部教授、2015年他界)が、
「健康は人生の目的ではなく手段だ」と
指摘されたのは1980年代である。
なにをいまさら、「病気にならないこと」だ。
いつも切れ味の鋭い編集者が、
こんなにひねりのないタイトルをつけるとは!!
ここに日本男性の
ヘルスリテラシーの幼稚さが象徴的に現われている。
さて、その連載の内容、
アルツハイマー症を防ぐ食事法があるそうで、
それを、例によって1回量を示すことなく、
「全粒穀物を1日3回以上」
「緑黄色野菜を週に6回以上」
「ベリー類を週に2回以上」
などとやっている。
アメリカのある大学の
アルツハイマー医療センターが行なったという
研究報告の紹介である。
1970年代に話題になった「地中海食」を
発展させたような食事内容。
栄養学の基礎ができていない、
センスの悪い研究者や医師は、
センスの悪い研究を見つけてくるものだ、
と苦笑せずにはいられない。
この手の研究者や医師は、
生活習慣病や生命維持の要因を、
ひたすら食事および食品含有の
微量成分に求めたがる。
医薬品に頼る商売からくるクセだろう。
「病気を見て、病人を診ない」といわれるように、
人をしっかり見ていない医者は、
人のライフスタイルに興味がないし、
それを分析する能力も育っていない。
酒を2日に1合飲む人、
コーヒーを1日1~3杯飲む人に
生活習慣病のリスクが少ない、
というテータを発表した当人が、
その要因を
酒やコーヒーの成分に求めようとする。
ライフスタイルについての洞察力があれば、
酒を2日に1合飲む人のライフスタイル、
コーヒーを1日1~3杯飲む人のライフスタイルも
調査したはずである。
ちょっと考えるだけでも、
その程度の習慣がある人のライフスタイルは、
適度にくつろぎがあり、
適度にコミュニケーションがあり、
おそらく、比較的よい人間関係の中にいる、
といった可能性が浮かんでくる。
文化人類学や民族学、
動物行動学の研究者は、
フィールドワークを得意とする。
いや、フィールドワークのない研究など、
エビデンス(証拠、根拠)のない研究同様、
一人前とはみなさないだろう。
疫学調査とは、
魚群に投網をかけるようなもので、
イワシの群れの中にアジやエビ、
ときにプラスチック容器が入ってしまっても、
細かいことはいっていられない。
ある意味、荒っぽい研究手法である。
しかし、
人間の病気や健康の原因を調べようと思ったら、
数は少なくても、
個体に密着して、
摂取食品だけでなく、
せめて食生活くらいは見てほしい。
食事時刻、食事はだれが作るのか、
同席するのはだれか(朝は 昼は 夕は)、
外食の頻度などなど。
この点でも、
日本には国民健康栄養調査という
世界に誇る大調査があるのだから、
ちらっとでも、
そういうものにも目を向けてほしい。
ライフスタイルにまで広げるなら、
就寝時刻、起床時刻、通勤距離、
コミュニケーションの頻度、
友人との関係、音楽の好み、
休日の過ごし方などなどを
記録する必要がある。
ライフスタイルを調べるのは、
容易ではない。
少なくとも2週間くらい、
同じ屋根の下で居住し、
一挙手一投足を観察しなければならない。
そんなことはできっこない、と
あきらめたくはない。
いろいろの測定器があるし、
まさにロボットやAIの出番ではないか。
まだ、その段階ではないならば、
断片的にしろ、
すでにあるライフスタイルの研究を参考にしてほしい。
レスター・ブレスローの
『7つの健康習慣』くらいには、
目を通しておく必要があるだろう。
このほかにも、国民生活時間調査や
レジャー白書など、
参考にできる調査は少なくない。
が、ヘルスリテラシーの低い人間は、
基礎栄養学も学んでいないままに、
いや、学んでいないからこそ、
食品の成分へ成分へと入って行って、
「全粒穀物が効く」「ベリーが効く」
とやってしまう。
そのほうが楽だから。
デスクワークだけですむから。
1日に、何を、どれだけ食べればよいか、
という1日単位の摂取基準の存在さえ
知らないままに、
いや、ここもまた、知らないからこそ、
「くすり効果」に期待する。
楽といえば、楽である。
日本のマスメディアのレベルは、
まだ、このあたりでさまよっている。
研究者や健康支援者が一定の見識を持っていても、
マスメディア関係者のレベルが低いので、
「安値安定」の状態が、
今後も10年、20年と続くだろう。
が、この責任は
編集者にあるのではなく、
自分の信ずる情報を
信念をもって提供しない研究者や健康支援者にある。
ひょっとして、
医師は、被害者グループに入るのかもしれない。
かれらを甘やかしているのはだれか。
責任者の筆頭に栄養士をあげられても、
しかたがないかもしれない。
栄養士よ、表現力を磨け、
本を書け、雑誌に連載をせよ。
by rocky-road | 2018-03-03 23:58