建築家のコミュニケーション力に注目。
NHKテレビの「プロフェショナル」、
1月16日、放送の「建物を変える、街が変わる」には、
興味を引かれるところがあった。
大島芳彦という、建築家の仕事の紹介である。
大島氏は建造物の「リノベーション」(修復、再生)の
第一人者だそうで、
築50年以上という、廃墟同然だった団地を再生し、
かつ、それをきっかけに、
街の活性化を図って成功させたりしている。
この建築家のコンセプトは、
「物語をデザインする」だという。
家は、人間が使う道具だから、
まずは人があり、次に建物がある、
当たり前の話だが、
素人は、そのことを忘れる。
つまり、建築家とは、
自分のアイディアをいかに美しく、
いかに機能的なものとして具現化するか、
ということに強いモチベーションを
抱く職業だと思ってしまう。
しかし、大島氏は、
最初にその家を建てた人の意図や、
その建物が街の一部として
どういう役割を果たすか、などを重視する。
古くなった家を単純にリフォームするのではなく、
その家や、その地域を、
以前よりも活性化することを目指す。
古くなった家を再生してほしいと、
家主から依頼されれば、
建築家としては「よし、任せろ」と
思いたくなるところだが、
大島氏は、それは家主の当事者意識の放棄だとする。
つまり、家主のマインドが定まっていないと、
ハコとしての建物をどんなに美しく再生しても、
人は居つかないという。
確かに、使い勝手のよい家でも、
家主がいやな奴だと、
長く住みたいとは思わない。
家主ばかりでなく、
商店やご近所に温かみがないと、
なじみにくい。
そこで大島氏は、
リノベーションを依頼してくる家主、
行政、会社などのマインドを引き出すために、
じっくり話し合うという。
また、「リノベーションスクール」とネーミングする活動を、
空き店舗などのある現地で行なうという。
それは、コンセプトを固めるための
ブレーンストーミングのようなものらしい。
それを3日間、続けることもあるという。
ここに関心を持ったのである。
建築家といえば、鉄筋だのコンクリートだの
ハードな仕事が中心だと思っていたら、
大島氏のスタンスは、
まず感性と知性を駆使しての
コミュニケーションから始まるのである。
建築には基礎工事がつきものだが、
地面を均す(ならす)前に、
大島氏の場合、人の心をならすというわけだ。
話は変わるが、
食コーチングプログラムスが主催する
「食ジム」は、
2010年10月に始まってから50回を超えた。
ずっと思ってきたことは、
こうした1日をかけた話し合いが、
地球の、どういうところで、
どのように行なわれているのか、
知りたい、ということ。
内閣の閣議は、
たぶん、そんなに時間はかけられないだろう。
それにしても、
閣議の司会進行はだれが行なうのか、
インターネットで調べてはみたが、
そこまでの記述は見つからなかった。
ちなみに、国会や各種委員会などは、
会議とか討論とか議論とか、
そういうものとは、似て非なるもの。
なぜなら、逆質問や、
反論が許されない話し合いは、
討論や議論とはほど遠い。
国会議員が
これほどまでに空虚な議論を行なっている現状を見ると、
日本は、とても先進国とはいえないことを認めざるを得ない。
建築家が、
前述のような
コミュニケーション環境を「構築」しているのだから、
きっと、世界各地で、いろいろのテーマで、
じっくり議論していることだろう。
かつて、アメリカのケネディ大統領は、
ソビエトの支援でミサイル基地を作ろうとしているキューバを
どう攻めるかを議論したという。
その閣議の様子を、
側近であったシオドア・C・ソレンセンが書いた
『ケネディの道』という本で読んだが、
アメリカ人の閣議の一端を知って、
これはかなわん、と思った。
確か、7つくらいのプランを並べ、
それを1つずつ検討するのであった。
その中には、失敗のシナリオもあった。
このあたりが日本人と違うところである。
日本だと、そういう案を出すこと自体が憚られる。
「そんな弱気でどうする!」という指摘が
ほかの出席者から出るに決まっているから、
弱気の発言はできないことになっている。
ともあれ、
建築家が、
ここまでコミュニケーションをたいせつにする事実は、
人間の可能性に夢を描かせてくれる。
60回に向けて進み続ける「食ジム」型トークセッションも、
さらに磨きをかける必要がある。
人の健康を支援する健康支援者、栄養士は、
「建築家以上にコミュニケーションの
機会が多い職業だから」という認識は、
危ない認識かもしれない。
毎日、食事相談を続ける栄養士よりも、
建築家のほうが、
よほど質のよいコミュニケーションを
行なっている可能性がある。
大島氏に、こんな発言があった。
「古い建物を壊して、新しく立て直すと、
過去はリセットされてしまう。
先代が何を考えていたかを理解したうえで、
それを解釈しなおして価値をつなげる。
それは、ほかの人にはできないことを
生み出す力になるはずなんですよね」
野暮なことだが、
これを食事相談に置き換えれば、
ある人が、長く続けてきた食生活の中から
弱点を指摘して、リセットさせようとすることは、
その人の生き方を否定することにもなる。
その人がなにを考え、
どこへ向かっているかを知ることで、
新しい価値、新しい力を引き出すことができる、
のではないか。
by rocky-road | 2017-01-22 23:20