外国人に日本の見どころを紹介するとしたら。
わがロッコム文章・編集塾では、
相手によって話し方、書き方を変えるという
トレーニングを続けている。
たとえば、「外国人に日本の見どころをアピールする」
「外国人に、日本が世界一の長寿国である理由を
文章で説明する」といった宿題を出して、
相手に沿った文体、説明の仕方を求める。
この場合、相手の国籍、性別、年齢などは
書く人に任せている。
が、そんな属性の特定にまで及ぶことなどなく、
ほとんど日本人向けの文章になってしまう。
外国語ではなく、日本語で書くからそうなる、
といわれそうだが、
そういう問題ではなく、
実在しない相手にピントを合わせるという経験がないから、
どうしても、実在する日本人向けの文章になってしまう。
しかし、不特定の人に文章を書く機会は、
少し社会性のある仕事に就いたら、
かならずある。
イベントのポスターやチラシを作る、
掲示を書く、招待状を書く、
新聞や雑誌に寄稿する、
テレビやラジオに出演するなど、など。
そういう場面を想定して、
トレーニングをすることは、
「そのとき」に備えるというよりも、
「そのとき」を求める姿勢、
ライフスタイルをステップアップさせる動機づけになる。
7月23日の能登教室(石川県)では、
「ステップアップの行動学」という講義をしたので、
「その内容を、友人・知人に説明しなさい」
という宿題を出した。
その提出は11月13日の第11回の教室。
16名の発表があったが、
予想どおり、
講義の内容を、相手を特定せずに説明している。
その証拠は、相手の「友人・知人」が
すぐに理解できるはずのないコトバを並べてしまう、
というところに現われる。
「アブラハム・マズローの五段階欲求説」
「利他行為」「人間の社会生活は、下りのエスカレーターを
逆に昇っているいるようなもの」
などと、講義のときに出た話をいきなりしてしまう。
これでは、普通の人は何を言っているかわからない。
宿題の文字数は600字以内。
この分量ではくわしい説明はできない。
なぜ、そうなるか、
それは、講義内容の振り返りに精いっぱいになるため。
その結果、小・中学生の感想文になってしまう。
どの発表者も、「知人・友人」のことなど、
かまっていられなくなる。
ここでも「想定力」の難儀さを実感した。
さんざん、その不備を指摘したあとに、
図らずも、ドンピシャリの発表があった。
それを全文、あげてみよう。
『幼なじみのあや子さんへ。』
花崎智恵美
私たち、これまで、もう何十年も、
年末に会うたびに、
「来年こそは、お互いステップアップしようね」って
言っているよね。でもそれって、
具体的にどうしたいと思ってるのかな。
今年7月に、ロッコム文章・編集塾の能登教室で、
「ステップアップの行動学」という
講義を受講したの。
そしたら、いかに今まで、あいまいな励まし合いを
してきたかということに気づいたの。
そこで学んだことは、
ステップアップにどんな意味があるのか
ということから、
ステップアップするためにはどんな行動をすべきかという内容。
ワンステップ目としては日常生活を見直す、
たとえば、日記をつける、衣服の管理、住環境のチェック、
おつきあいの仕方、雑誌の定期購読、読書の習慣、
手書きの習慣など、行動のチェック。
さらにツーステップ目として、
人脈、専門性の強化、事業計画の作成、投稿、
ホームページの作成、アドバイスを受ける態勢づくり、
セミナーや講演会の参加率を高めるなど、
仕事に結びつく内容を具体的に教えてくださったの。
よい人生を送りたい。よいお仕事をしたい。
そう思っているだけではダメ。
具体的な行動を起こさないといけない。
そう思わない?
講師の先生は「清く、正しく生きているだけではダメ。
誰かに借りをつくったものを返していかないと」
っておっしゃるの。
そのとおりだと思う。そのコトバは、
今も胸にジーンと響いている。
ステップアップするのは、来年からじゃなくて、
今からだよね。行動リストを作ってみない?
この文章には、講義に出てきたマズローも、
「下りのエスカレーター」も出てこない。
要約とはそういうもの。
それに、内容のすべてを伝える必要もスペースもない。
相手を想定して、相手に伝わる内容に仕立てればよい。
相手が日本人であれ、外国人であれ、
相手の想定はむずかしい。
だから、親しくない人に向けて文章を書くときは、
想定する人の名、または写真を近くに置いて
作文するとよい、と説いている。
年賀状はいいとして、
「喪中につき年末・年始のごあいさつは……」という
年末のハガキを書くときも、
こちらの事情というより、
受け取る相手を想定して作文をしたい。
「だれの喪中なのか」
「母とは、実母なのか義母なのか」
受け取る人の迷いを想定して書状を作りたい。
by rocky-road | 2016-11-19 00:52