30食品~四群点数法~10食品。
去る9月14日の夜、
「NHKジャーナル」というラジオ番組を
たまたま耳にした。
『老化を遅らせる食事法』という番組。
人間総合科学大学教授の熊谷 修氏が、
その内容を説明していた。
年齢が高くなるとコレステロール値や血糖値、
血圧を気にする人が多いが、
それ以上に気にしなければならないのは
たんぱく質の不足やエネルギー不足だという。
氏による、
番組以外の説を参考にすると、
近年、血液中に含まれる血清アルブミンの低下が
老化や認知症、その他の生活習慣病のリスクを
増大させることが
外国の研究者などの間でも
明らかになってきたという。
血清アルブミンは
摂取した良質たんぱく質を材料にして
肝臓で合成されるという。
この成分は、血中の60%を占めるといい、
これより下回ると抗酸化機能が落ちたり、
放熱作用が落ちたりするという。
高齢者の熱中症の一因は、
血清アルブミン量の不足から
つまりは摂取たんぱく質不足から
外気温で上昇した体温を、
放熱することができなくなるため、とする。
結論は、「粗食」や、1日2食などではダメで、
毎日80㌘ほどの肉をとる必要がある、と。
近年の高齢者研究者には、
肉をすすめ、
「ちょっと太め」をすすめる人が多い。
数年前から
「肉など脂っこいものをたくさんとると
生活習慣病をふやし、『食の堕落』を進め、
それは民族の危機」との珍説を展開し続けている
農学系の某発酵学者がいるが、
このセンセイの意見を聞いてみたいものである。
この発酵学者は、昭和30年代まで続いてきた
海藻、根菜、魚、豆、米を基本とする和食は
栄養バランスが理想的、と公言し続けている。
NHKジャーナルの話に戻って、
熊谷氏は、老化を遅らせる食事の大切さを述べ、
その事例を「いまからいう10の食品を
リスナーのみなさんは書き取っていただきたい」と
ことわって、以下の食品をあげた。
①肉、②卵、③牛乳、④油、⑤魚介類、
⑥大豆製品、⑦緑黄色野菜、⑧芋、⑨くだもの、⑩海藻
これらの食品を1日3回の食事によって
均等にとることをすすめていた。
この中で、量を示したのは肉の80㌘。
食品の品目で見れば、
食事摂取基準に近いものになっている。
しかし、量の目安がないうえに、
適正エネルギーについての説明もないので、
この放送を聞いただけでは、
実行しにくいし、実行したとしても、
長続きはしないだろ。
漫然と10食品をマークして、
それを毎日とるには、食品が散らばりすぎている。
文明や文化もまた、
つねに右肩上がりではないことは承知しているが、
分野が違うと、
これまでの歴史が生かされず、
およそ50年くらい後戻りしてしまうものかと
またまた慨嘆した。
つまり、1958年には、
いろいろの経過を経て、「四つの食品群」が
香川 綾先生によって提唱されていた。
(女子栄養大学創立者、医学博士)
この食事の目安は、
当時の「栄養所要量」に基づいて
1日にとりたい食品を4つのグループに分け、
性、年齢、労働量などに応じて、
その摂取概量を示したものである。
第1群として、卵は1個、牛乳をコップ多めに1杯。
第2群は、肉と魚、その加工品を1日2皿。
第3群は、緑黄色野菜と淡色野菜を合わせて300㌘。
(今日では350㌘)
芋1個、
くだもの1個(リンゴ、みかんなら2個)
海藻、きのこは任意の量。
第4群は、穀類(米、パン、麺など)を
1日3食。ご飯は茶わん軽く1杯程度。
パンは食パンなら2枚、
麺なら1わんを1食分とする。
油脂は、1日、計量スプーン1杯
菓子や砂糖、嗜好飲料は
毎日とるべき食品ではないが、
とる場合は、この群の食品として扱う。
「四つの食品群」の食品は、
「老化を遅らせる食事」と大差はないが、
それらを4つの引き出しに入れて覚えるので、
整理はしやすくなる。
卵と牛乳は第1群だから、
朝食で、真っ先にとるようにする、
などの原則を作ってしまえば、
あとは3つの群のコントロールである。
この「四つの食品群」はとるべき量を
1個とか2皿とか、概量を示すほか、
それぞれに重量を示している。
上記のものは家事を専業とする
主婦の必要エネルギーをベースにしたものである。
のちに、食品の重量を、80キロカロリーを1点として、
1日20点(1600キロカロリー)を基本量とする、
「四群点数法」へと発展し、
中学、高校の一部の教科書にも採用された。
『食品成分表』に収載されている食品を
1点80キロカロリー当たりの重量に置き換え、
冊子にした。
『1点80キロカロリー成分表』という。
エネルギー単位に食品の重量を示したのは、
当時、1960年代前半ころから、
肥満や「成人病」(当時)が顕著になってきたためである。
「卵は1個がほぼ1点(80キロカロリー)、
魚は、アジなら1匹が1点」というように把握する。
栄養学はここまで前進してきた。
食品栄養学、食品化学、栄養生理学、
ビタミン学などの研究実績をもとに
「食事摂取基準」というガイドラインが
省庁から数十年にわたって示され、
さらに、毎年行なわれる国民健康栄養調査などの
成績も加味して、ゼロ歳から高齢期の人までの、
労働量別の適正摂取栄養量の
ガイドラインが示されている。
医学の分野では、
ここ30~10年くらいのあいだに
治療から予防へと急速にシフトしてきた。
この過程で、栄養学に関心が向くようになる。
が、栄養学の基礎知識を学んでいないから、
とかく部分対応になる。
アンチエージング分野では、
こんな微量成分がいい、
こんな食品がいい、と、
単品をすすめる学者が多かった。
「多かった」と表現するのは、
「アンチエージング」説の流行が
ほぼ終わったと見るからである。
ドクターや、栄養学以外の学者には、
国民健康栄養調査や日本の栄養学史を
チェックしている人の割合は低かろう。
かれらには「三色食品群」や「1日30食品」
のことを知っている人は少ないと思われる。
つまり、食品に含まれる栄養素の特徴別に
食品を分類するだけでは、
量のコントロールができないことを
調理経験や食生活運営経験のない者には、
なかなか理解できないのである。
昔(1980年代)、厚生省が提案した
「1日30食品を」運動などは、
「七色とうがらし」をとれば7品はとれる、
というようなお笑いネタにまでなった。
毎日、とりたい食品を30品だ、10品だと
並べただけでは、
ルートを示したことにはならないので、
食生活の地図にはならないことに
大半のドクターや専門外の学者の思いは至らない。
悲しいが、それが現実である。
しかし、彼らの無知や浅学を嘆くだけでは
問題は解決しない。
その原因は、むしろ栄養士の怠慢にある。
「四群点数法」を学んだ栄養士が、
それを普及することを怠ったか、
それに全力を注がなかったことが
遠因としてある。
それをさらに掘り下げると、
栄養士のコミュニケーション能力の低さにある。
話す力、書く力の強化を怠ったために、
情報を遠くに飛ばすことができなかった。
「1日に何をどれだけ食べるか」という
食の地図を人に示し、
実践してもらうところにまでもっていくには、
論理も、情緒も、さらには哲学も必要になる。
相手は専門家ではなく、一般市民である。
よけいに情報発信力が必要になる。
学ぼうと思っていない人たちの関心を引くには、
よほど魅力的な話し方、書き方が求められる。
というところまできて、
「だったら、アンタだって、一端の責任がある」
という声が聞こえてきた。
「栄養士、健康支援者のコミュニケーション力、
表現力の強化を目的に授業を行なっているのに、
なぜ、栄養学の分野にすぐれた論者が出てこないのだ」と。
指導法の問題なのか、
目標設定があいまいなのか、
珠玉(「じゅず」ではなく、「しゅぎょく」)の
人材に不足があるのか、
かれらもモチベーションの低い世代なのか、
さらに熟考してみたい。
と同時に、
一時、研究分野でしきりにいわれたように、
「学際的」な人的交流も必要だろう。
ドクターや、栄養学に弱い学者と栄養士とが、
コラボレートすれば、
いくらか状況が変わるだろう。
だがだが、
果たして、そういう連中、
つまり、ナイーブで、視野狭窄気味のドクターや栄養士が、
放っておいたままで
自主的に交流ができるのか。
ここにもコミュニケーションの
ハードルがあるのが現実である。
by rocky-road | 2016-09-21 17:05