はからずも、この道。

工藤昌男さんの、
ダイビング界への貢献を確認し、
称える会を開いた。
題して「工藤昌男さんの『海からの発想』を語る会」
2016年3月5日、6時30分~8時30分
新宿区「ウイズ新宿」3階会議室。
タイトルは、工藤さんの著書の書名にちなんでいる。
発起人は、山崎由紀子さん(マナティーズ)と私。

工藤さんは、1930年、東京生まれで、この3月で85歳。
戦後のレクリエーションダイビングの草分け世代のお1人。
アメリカの進駐軍から
直接習った日本人を第1グループとすると、
その人たちから、さらに習った日本人は第2グルーブといえる。
工藤さんは、
1950年代の前半にダイビングを始めたというから、
第1と第2グループの中間あたりに属するのかもしれない。

しかし、工藤さんはダイバーとしてよりも、
ダイビングや海を科学的に解釈する論者として、
海洋雑誌やダイビング雑誌、
その他のイベントなどで活躍した。
それがダイビング関係のリーダーたちに、
刺激となった。
自分たちが後輩たちを
どの方向へ導いていくべきかを考えるときのヒントになった。

もっとも、
工藤さんが著書の中で書いているように
「ダイバーは科学的発想は得意とはいえない」から、
多くのダイバーは、
海を科学するというような楽しみ方はしなかった。

そうではあるが、
少なくとも私は、
工藤さんの発想には納得するところが多かった。
カメラマンが被写体を手作りして
「自然風」を装う「ヤラセ」議論がはやったとき、
工藤さんは「水中でストロボ撮影することだって
ヤラセといえばいえる」といった。

確かに、ストロボ光は自然そのものではない。
「それを自然を撮った写真」といえるのか。
工藤さんは、ヤラセを肯定したわけでも
否定したわけでもない。
工藤さんにとって重要なのは、
発想の着眼点であり、ユーモアである。

ビデオカメラが普及したころ、
「これからは動画の時代」
といった人がいたらしいが、
工藤さんは「人が見ているのは動いている世界。
それをそのまま撮ってもおもしろくはない。
止まっている瞬間は見られない。
それをキャッチするのがスチール写真だから、
その価値は少しも落ちるものではない」

これらの発想は、
いまも私の写真論の下敷きになっている。
また、1975年に「水中8ミリフェスティバル」を
発足させたが、
このアイディアも、
工藤さんのアドバイスに大きく依っている。
このサークルは、8ミリフィルムの衰退に伴い、
発展的解消をし、
1983年には「水中映像サークル」へと移行した。

時代は8ミリフィルムから、
ビデオ映像へと変わっていた。
スチール写真をどうするか迷っているとき、
アメリカでは「スライドショー」を楽しんでいる、
という話を工藤さんから聞き、
ビデオとスチール写真を楽しむサークルとした。

当日の工藤さんからは、
1964年以前、私が出会う前のことも
お聞きしたかった。
その1つは、
かつて三木鶏郎の「冗談工房」に属する
放送作家時代(永六輔、野坂昭如氏らも仲間)の話。
あるいは、海洋博のときの
「くじら館」のプロデュースの話など。
1時間くらいはかけて聞きたかったが、
あの雄弁家/工藤昌男氏も
気力・体力は万全ではなかった。

この会のコンセプトは、
個人の業績を確認し、
それを個々人の歴史の1ページにすること、
そして、できれば、のちの時代の人に
語り継ぐこと。

近年、「語り継ぐ」は、流行語になっているが、
その場合、ほとんどが悲劇を対象としている。
日本人は人の業績を
肯定的に評価することが得意でない。
「伝記」という文学ジャンルが不活性なことからもわかる。

それこそ人を「動画的」に見ているから、
ピシッと静止画像で見られない。
人の業績や人生を静止画像で見るには、
コトバが欠かせない。
コトバは目では見にくい「業績」というものを
ストップモーションで見ることを可能にするし、
保存することをも容易にする。

それにしても、
これまでに、功績のある人と、
フェイドアウト的に別れることは幾度あったことか。
そういう別れ方は、
自分の能力の低さの証明ではないのか、
そう思うようになった。
こういう反省から、
工藤さんの功績をみなさんと共有したいと思った。
当日の工藤さんは、
「はからずも」をキーワードにして
スピーチをしたかったらしい。
「はからずも」とは「図らず」と書く。
「意図せずに」「たまたま」「偶然にも」
という意味。
つまり、気がつけばこの道を選んでいた、
ということだろう。
ギラギラしない、謙虚な表現。

工藤さんらしいキーワードだが、
そういう人を
「なりゆき任せ」が嫌いで、
「図る」ことの好きな私が
引っ張り出したことにおもしろさを感じた。
それが人生における役割分担というものだろう。
この経験を、
みなさんも語り継いでくれることだろう。

by rocky-road | 2016-03-08 00:41