フードファディズムのセーフティネットとは。
『体にいい食べ物は
なぜコロコロと変わるのか』
という本が出たので入手した。
(畑中三応子著 KKベストセラーズ発行)
(以下『コロコロ』と略称)
フードファディズムを指摘するこういう本は、
5年に1度くらいは出てほしい本である。
ぱらぱら開いていたら、
自分が作った本も、
マユツバ本としてあげられているのには苦笑した。
女子栄養大学出版部時代に、
《栄大ブックス》というシリーズの1冊として出した、
『アルカリ性食品の効用』という本である。
書名どおりに解釈すれば、
アルカリ性食品の効用を説いた本
ということになるが、
内容は、「……といわれているが、
人間の体液は酸性になったり
アルカリ性になったりすることはない」という、
当時の俗説を是正するものである。
いまだったら、
『アルカリ性食品は、
ほんとうに体によいのか』
などとするところだろう。
ネーミングは、時代を反映するもので、
そこまで結論をアピールするネーミングは
考えなかった。
その点では多分に迎合的で、
あたかもアルカリ性食品のすすめ
のようなネーミングになっている。
自分では、「羊頭狗肉」の反対、
「狗頭羊肉」のつもりであった。
「羊頭苦肉」は「見かけ倒し」の意味だが、
「狗頭羊肉」とは、
一見、粗悪な(狗は犬の肉)ものに見えるが、
食べてみると良質な肉だった、
という意味である。
それなりに良心はあったが、
読者を逆の意味で裏切るわけだから、
偽装の気配がまったくない、とは言いきれない。
結果がよくても、騙しはだましである。
現に、この本が出て38年後
(初版1976年、昭和51年)に、
フードファディズム的本の1冊として
あげられてしまったのである。
いま、読み返してみると、
冒頭から「アルカリ性食品の誤解」という
項目があったりして
けっしてアルカリ性食品をすすめる本には
なってはいない。
作戦としては、
アルカリ性食品信仰をきつく否定するのではなく、
そうした関心をテコにして、
正しいバランス感覚を身につけてもらおう、
としているのがわかる。
「フードファディズム」などという概念が
流布していなかった、のどかな時代である。
とはいえ、
後世の人が、のちに資料を集める場合、
1冊1冊、内容を精査するとは限らないから、
こういう行き違いが起こると、
それは、歴史にシミをつけることにほかならない。
いまになって、
『コロコロ……』の筆者に、
「よく読んでから紹介してほしい」と
抗議しても始まらない。
『コロコロ』の筆者は、こう書いている。
「戦後のわかりやすい料理レシピのもととなった
計量カップ・スプーンの開発、
食品を四つのグループに分類してそれぞれを
バランスよく摂取する『四群点数法』の提唱など、
家庭料理への貢献も大きい博士の意見に
疑義を挟む人は少なかったろう」
そこまでいうなら、
では、アルカリ性、酸性の意味とはなにかを
解説してほしいところだが、
そうした科学的説明はなく、
1985年に公正取引委員会が
スポーツドリンク5種に
「アルカリ性食品である旨を記載し、
あたかも人の健康に有益であるかのように
表示することは不当表示となるおそれがある」
と警告したことを論拠にして終わりである。
『アルカリ性食品の効用』を読めば、
もう少しうまくまとめられたことだろう。
正確にいうと、『アルカリ性食品の効用』では、
香川 綾先生は「はじめに」を書いているだけで、
本論は、
栄養生理学、食品学、食品化学などの学者5人の
共同執筆で構成されている。
現時点でも、内容に科学的な不備は感じられない。
が、いわば「タイトルだけフードファディズム」
とでもいうのか、
それもミスはミスである。
責任は、そういうネーミングした私にある。
香川先生が怪しい説を展開した人のように
書かれてしまったのだから
天国の綾先生には
伏してお詫びしなければならない。
さて、
そういう失敗をした者から見ても、
近年の、医師による健康本のフライングは
とどまるところを知らない。
そして、栄養士が、その尻拭いをする度合いは、
ますます高くなるだろう。
「1日3食はよくないんですか」
「長生きしたかったら
肉を食べないほうがいいのですか」
といった質問が、
日本各地の食事相談室で
発せられていることだろう。
ここまできたら、
現役栄養士のために、
こういう質問には
どう対処すればよいかを学ぶセミナーが
必要になってきたのではないか。
いまや、
一栄養士の知識や経験では対応できないほど、
医師や、その他によるフードファディズムが
流布しつつある。
この風潮に一石を投じたという意味で、
『体にいい食べ物はなぜコロコロと
変わるのか』の出版には意義がある。
栄養士も目を通しておいてよいと思うが、
その結論が、
「体にいい食べ物は、ほどよい匙加減で
取り入れるのが一番ではないだろうか」
というのではプロのニーズには応えられない。
基礎的な栄養生理学的知識と、
人のライフスタイルというものへの理解力と、
かつ、
予備知識のないクライアントに対応できる
コミュニケーション力が求められる。
「食コーチング」的な
食事相談スキルを活用する方法を
レクチャーするセミナーを企画するのは
「いまでしょ」かもしれない。
だれがやるか。
学校給食に一時、牛乳を休止するという
ある市の方針について、
わけのわからない論評をしている
日本を代表する栄養士の団体には、
こういうセミナーを企画する能力も、
実施する運営力もないことは確かである。
では?
ロッコム文章・編集塾か、
パルマローザブラッシュアップセミナーか、
食コーチングセミナーか、
食ジムか。
(輪読会で少しはやったが)
by rocky-road | 2014-08-26 23:14