「食育シンドローム」に気をつけよう。

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内閣府がまとめた、
平成25年度の食育に関する
推進施策(186回国会提出)、
同白書、同意識調査報告書などに
目を通す機会があった。
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それによって、
食育の近況を知る機会を得た、
というよりも、
「食育」というコトバの奇妙さについて
言語学的な懸念を抱いた。
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平成17年に食育基本法が制定された当時から
指摘してきたことではあるが、
「食育」というコトバには定義がない。
不思議なことだが、
法律化され、内閣の国家的施策とされる
大運動ながらも、
その根幹となる「食育」に定義がないのである。
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定義はなくても、目的はある。
関係者なら、それには目を通した経験があるはずで、
こんなふうになっている。(概要)

「国民が健全な心身を培い、
豊かな人間性をはぐくむための
食育を推進し、施策を総合的かつ計画的に
推進すること等を目的とする」
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定義をしないまま、
「食育を推進し……」とくる。
言語学系の人間であれば、
直感的に「危ないな」と思うだろう。
たとえれば、
旅行バッグの大きさがわからないままに、
中に入れるものを用意するようなもの。
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バッグに詰め込み始めたところで、
ちょっとバッグが小さすぎたな、と思っても、
別のバッグを用意する時間もなく、
かまわず押し込んでしまう。
当然、ファスナーはかからず、
移動中に中身があふれ出す。
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食育の基本的施策には、
こんなにも中身が多い。
1.家庭における食育の推進
2.学校、保育所等における食育の推進
3.地域における食生活の改善のための
  取組(ママ)の推進
4.食育の推進運動の展開
5.生活者と消費者との交流の促進、
  環境と調和のとれた農林、漁業の活性化等
6.食文化の継承のための活動への支援等
7.食品の安全性、栄養その他の食生活に関する調査、研究、
  情報の提供及び国際交流の推進
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おおむね国民の食行動の全部といえる。
「3」の「食生活の改善」というのは、
たぶん、生活習慣病予防を想定しているのだろう。
「健康の維持・向上」という文言がないのが
むしろ不思議である。
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いずれにしろ、
これらの施策を「食育」というコトバで包むムリは
だれにもわかるだろう。
「知育、徳育、体育」という文脈の
中から生まれた「食育」という用語には、
どうしても年少者を対象とする、というニュアンスがある。
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現に、『広辞苑』(第六版)での定義は
「食材・食習慣・栄養など、食に関する教育」
となっている。
これが「食育」というコトバから受ける
日本人の普通の言語感覚だろう。
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「食育」は、日本語では名詞だが、
中国語風の解釈では動詞だろう。
「食を育てる」と解釈するのか、
「食で育てる」と読むのか、
たぶん、中国人には理解できない用語だろうが。
日本語の「する」という動詞は、
どこの国のコトバにもくっついて動詞化する。
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「学問・する」「勉強・する」「お茶・する」
「カンニング・する」「エスケープ・する」
「ランデブー・する」「ゲバルト・する」
当然、「食育・する」もありだが、
「食育する」とはなにを「する」のか。
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内閣府は、食育というコトバの周知度に関しても
意識調査をしているが、
「言葉も意味も知っていた」という人が43.6%、
「言葉は知っていたが、
意味は知らなかった」が33.0%、
「言葉も意味も知らなかった」が23.4%
いかにも手前味噌のデータである。
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「言葉も意味も知っていた」という43.6%に
聞いてみたいものである。「どうわかっているの?」
これだけスケールの多い運動を「知る」とは
どういうことなのか。
すらすらと答える人が43%もいるなんて、
ご冗談でしょう。
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が、いまや、
振り返って語感について考え直そう、
などといっているヒマはなく、
食育は、前へ前へと進む。
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「メタボリックシンドロームの予防や改善」も食育、
「リスクコミュニケーションの充実」も食育、
「日本人の食事摂取基準の充実、公表、活用推進」も食育……。
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こうなると、
「なんでもあり」の「食育チャンプル」である。
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コトバにも積載量に限界というものがあるし、
「分」(わきまえ)というものがある。
「分不相応」なコトバは、
重みに耐えかねて潰れる。
つまり死語になる。
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定義のないコトバは、
残酷な面もある。
土俵のない相撲と同じで、
弱い者は、倒れない限り、
ずっと押されっぱなしになる。
ゲームオーバーがないのである。
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これを「永久的なビジネスチャンス」ととるか、
「終わりのない耐久レース」ととるか。
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いま、医学的な見地から
新語を作るとすれば、それは
「食育疲れ」
「食育シンドローム」
ではないだろうか。

by rocky-road | 2014-06-12 00:04  

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