「取材させていただけませんか」

知人の栄養士が、
雑誌記事のための取材を受けた。
彼女は、健康支援を行なう職場に勤めており、
取材依頼は、その職場を通じてのものだという。
彼女の役割は、
編集プロダクションがまとめる雑誌記事の監修。
そのプロダクションは
大手の出版社の仕事を請け負っている。

記事は生活習慣病の予防や治療に関するもの。
趣旨がよいので、前向きに対処した。
が、インタビュー内容が断片的で
うまくまとめられるのか、懸念があった。

「体重が1kg減ると、血圧はどのくらい下がるのか」
「肥満になりやすい食生活とは」
「1日の摂取エネルギー量の計算方法は?」
「塩分の取り過ぎは、肥満にも通じるのか」
「食物繊維はどれくらいとったらよいのか」
「特定保健用食品をたくさんとると、
効果が相乗的にアップするのか」

1つ1つの疑問は、それなりに意味があるが、
そんなに多くの問題を数ページに収められるのか、
「部分があって全体がない」知識は、
読者を「耳年増」にするだけではないのか。

気にしながら応じたが、
できあがった記事のダミー(本番のような見本)を見て、
最初に感じた懸念は当たってしまった。

記事は、「やせる」ことが、
生活習慣病予防にどれだけ有効かを説く内容で、
BMIの計算の仕方なども示されていて、
それなりによくできてはいる。

が、取材内容とは違っていて、
すでに、かなりの構成ができている感じ。
監修者の役割は、それを追認する、
ということになりそうだった。
監修者としては、
もう少し基本の問題である、食生活のあり方や、
1日に、何を、どれだけ食べればよいのか、
といった事項についての解説がほしいと思う。

それやこれやについて、
取材側とずいぶんやりとりをしたらしいが、
「時間がない」と言って押し切られそうになった。

「監修者」としては、
そうした、あちこち気になる記事について
自分の名を出すことはできない、
と判断して、「降りる」決意をした。

職場の上役に相談したところ、
「ここで断ってしまうと、
2度と依頼されなくなるだろう。
会社の知名度アップにつながるのだから、
ここは我慢して」という意見。

が、さらにトップに相談すると、
「キミが納得できないなら断るのもやむを得ない」と。

彼女は、意を決して、
取材者に「降りる」ことを伝えた。
この段階で断られるプロダクションの苦境はよくわかる。
そうとう粘られたらしいが、けっきょく決裂した。

相手は「ほかにも頼める栄養士はいるから」との
捨てゼリフを残したという。
現実問題として、
その記事は、ほかの監修者の名で世に出ることだろう。

「どうあがいても、結果は同じではないか」
社会現象としてはそのとおりだが、
1栄養士の生き方としては、
けっして「同じ」結末とはいえない。
「不備の多い記事の監修者にならなかった」
というプライドは、
彼女の、今後の栄養士人生を支えることだろう。

では、ピンチのときのリリーフピッチャーになる
2番手の栄養士の場合はどうだろう。
「けっこう、よく書けているじゃない。
これくらいなら、問題にしなくてもいいのでは?」
「わあ、一流誌に出られるんだァ」
「何か所か手を入れさせていただければ、
お引き受けします」
「そんなに急ぐんですか。
わかりました。今晩中に目を通して、朝までに返信します」

相手が出版関係であれ、新聞社であれ、
テレビ・ラジオであれ、
こんな場面は毎日のように日本全国で展開していることだろう。
栄養士に限らず、少なからずの人はマスメディアに弱い。
素人同然の人間が書いたシナリオに乗って演ずる人は、
おそらく依頼を受けた人の90%を下回らないだろう。

このように、二流、三流でスタートして、
それで生涯現役を貫く人は多い。
三流から一流へとステップアップする人も
ないとはいえない。
二流、三流の仕事を断ったものの、
一流の仕事にもありつけない人もいる。
かと思えば、一流としての実績を残したのに、
栄養士活動の後半で三流の仕事を増やした人もいる。

どの行き方がよいのか、という問題ではない。
栄養士としての使命をどうとらえるかという問題である。
使命感のない栄養士にとっては、
一流も三流もない。
流れ藻のように、風任せで流れ続けるだけのこと。
流れ藻に「あんたには根がないのか」と言っても
始まらない。言うこと自体、無粋である。

一流か、二流半かを目指す人には、
こんなアドバイスが可能だろう。
1.依頼のためのコンタクトがあったとき、
その内容を確かめること。
相手がどんなに有名なメディアでも、
疑問点や意に沿わない点は指摘する。
ここで妥協の余地がないときは、
きっぱりと断る。
ここで断れば、あとを引かない。
断ったことでダメになる人は、
もともとダメな人なのである。
断り方の例
「うかがったところ、私には荷が重そうなので」
「ちょっと私の考えていることと開きがあるので」

2.「ほかの仕事のこともあるので、
一晩考えさせていただくことはできますか」
こう言っておいて、知人、友人に相談するのも一案。
この場合、
相談相手は客観的にモノが見られる人であってほしい。

3.話が進んで、
インタビューや打ち合わせの段階に入ったときは、
話の内容に沿って箇条書きのメモを用意し、
打ち合わせなら、それを資料として提示する。
インタビューを受けた場合は、
最後に、
「きょう、お話した内容をメモの形で
書きだしておきましたので、
ご参考にしてください」といって渡す。
曲解や誤解をかなり抑止することができるだろう。
by rocky-road | 2014-04-18 16:08