『芸術を創る脳』でひらめくもの。

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「輪読会」に紹介する候補の1冊として
『芸術を創る脳』(美・言語・人間性をめぐる対話)
という本を読み始めた。
もともと脳科学ものが好きだが、
この本は、実に多くのヒントを与えてくれる。
(酒井邦嘉編 東京大学出版会発行 2013年12月)
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編者の酒井氏は言語脳科学者。
以前、『言語の脳科学』(中公新書)という本でも
多くの教えをいただいたことがある。

『芸術を創る脳』は、その酒井氏が
4人の芸術家と対談する。
曽我大介氏は指揮者で作曲家。
羽生善治氏は将棋士。
(将棋士が芸術家である理由の説明はある)
前田知洋氏はクローズアップマジシャン。
千住 博氏は日本画家。
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一見、酒井氏のインタビュー集に思えるが、
別に影の司会者(版元の編集者)がいるらしく、
2人は同等に発言している。
それゆえに、脳科学的な発言にも不足はない。
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対談相手は、めったに会えない分野の人たちだから
(脳科学者にだって会えないが)、
大いに好奇心を刺激してくれる。
それに加えて、
それらの発言について脳科学的解釈が入る。
シビれるような内容である。
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たとえば、指揮者の曽我氏の発言。
「オーケストラのリハーサルは、
全部やってはいけないのです」
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『この服を着て、これを持って学校に行きなさい。
七時三十二分の電車に乗ってこの駅からこう行けば学校に着きます』
というように全部指示したのでは、
本番が面白くなくなってしまいます。
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ですから、ここまでやれば破綻なく演奏が終わる、
という約束事を決めておき、
二〇%から三〇%程度の余地を残して
リハーサルを終えます。
その自由な部分がライブの興奮や緊張感として
伝わるのだと思います」
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(そういえば、以前、小澤征爾氏が、
オーケストラの指揮は「指揮」ではなく、
「誘導」だとテレビで語っていた)
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「一般の方に言うと驚かれますが、
オーケストラのリハーサルは、
一つコンサートのために一回とか二回、
多いときでも三回くらいしかやりません」
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「そういった感じの自由度が、
オーケストラとサッカーに共通していて、
私には興味深いのです」
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この発言は、
パワーポイントに100%依存する
講演や研究発表者のつまらなさの理由説明に
なっているし、
健康相談のときなど、
問いかけをまったくしないままに、
1を尋ねられるやいなや10を答えてしまう
指導好きの担当者の問題点の説明にもなっている。
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こんなやりとりもある。
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酒井「リハーサルで指揮者が演奏者に指示するとき、
  どこまで具体的に言葉で表現するものでしょうか」
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曽我「それは状況によりますね」
  「『銀河系の、太陽系の、地球の、アジアの、
  日本の、東京の、本郷三丁目の、東京大学出版会』
  という順番で説明します」
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  「私の先生の一人であるジュゼッペ・シノーボリは、
  『音を大きくして』と言わないのです。
  例えば『温めてください』と言う。
  そうすると、『大きくして』と言うよりも
  人間的な感情に近く、指示の意図が伝わりやすくなります」
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「銀河系の……」のくだりは、
いろいろの計画のコンセプトをまとめるとき、
その本質を、順を追って、わかりやすく、
自分の中でまとめる能力、
それを論理的に説明する能力の必要性を
指摘することになっているし、
「温めてください」の部分は、
趣意を相手にわかりやすく、印象的に伝えるときの
コトバ選びの重要性を示唆している。
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いずれ、一部分は輪読会で一緒に読んでみたいが、
待てない人は、目を通しておくのはいいかもしれない。
「人間力」の強化、思考力、感性の強化に
大いに役立つ1冊となることだろう。
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by rocky-road | 2014-02-03 15:40  

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