自然や食の名翻訳家になる。
「地球最後の日が近づいたら、
最後になにを食べたい?」
若いときに、
こんな他愛のない会話を楽しんだ人は多いと思う。
アメリカはフロリダにある、
アメリカ人夫妻の邸宅に滞在した
日本人女性の何人かが、
こんなやりとりを楽しんでいたら、
同家の主人が興味を示したという。
そこで、「ビルだったら?」と
その高齢の男性に尋ねた。
会社の会長でもあるビル氏が答えたのは、
サラミソーセージ入りのサンドイッチとか、
ハンバーガーとか、ホットドッグとかだったと、
そこにいた女性の1人が話してくれた。
アメリカ人の食生活のシンプルさが
よくわかるエピソードである。
ところで、「地球最後の日」そのものも、
思っているほどシンプルなものではなさそうである。
隕石があと5日で地球に激突する、
という最後ではなく、
たとえば気候の大変動が起こり、
きょうは100人、あしたは1千万というぐあいに、
人類は徐々にフェイドアウトしていきそうである。
つまり、最後に食べておきたいものがあれば、
来る日も来る日も好物をタラフク食いまくる、
という時間的余裕がありそうだ。
ということは、食べることに、
そう執着する必要はないということである。
ところで、きょう、このごろの気象変動は、
このような最後の日への序章なのかもしれない。
だが、そういう予知能力のまったくない気象予報士は、
あいもかわらず、あした、あさっての天気予報を繰り返す。
ちょっと込み入った説明となると、
なんだか頼りのない口調になる。
突風が起きた理由を聞かれたのに対して
「積乱雲の下は突風が吹きやすいんです」などと
能天気なことをいっている。
視聴者が知りたいのは、
積乱雲の下で、なぜ突風や竜巻が起こるかである。
台風が大きな被害をもたらす理由を聞かれると、
「海の温度が上がって台風が生まれやすくなっているのです」
などと、通り一遍の説明を繰り返す。
こうなるのは、
もちろん気象予報士の専門知識不足によるものではない。
そうではなくて、翻訳能力の不足、
または翻訳能力の未開発によるものである。
気象予報士は、
気象現象の翻訳者であることが求められる。
視聴者が気づいていないこと、知らないことを
先取りして翻訳する。
つまりわかりやすく説明する。
あしたが、晴れか雨かをいうだけなら、
気象庁が発表するデータの読み手としての
アナウンサーが1人いれば間に合う。
翻訳家としては、
「積乱雲(入道雲)は、地上から蒸発したエネルギーの塊です。
どんどん上昇しますが、成層圏(空気層とは異なる風の流れのゾーン)の
上のほうにある温度の高いオゾン層にぶつかって、
押し戻されます。このとき、雲の中で摩擦が起こって、
電気が起こり、これが雷になります」
「エネルギーが逆流または移動するとき、
風が起こります。
上昇した熱エネルギーのあとには
その空白を埋めようとして、別の風が疾走してきます。
満員電車の中で、1人が立ったら、すぐにだれかが
座ろうとするでしょ? それと同じ理屈です」
「地球の温暖化が猛暑の原因だとすれば、
これからは、地上のエネルギーが空にたまりやすくなり、
たまったエネルギーは、『エネルギー保存の法則』によって、
同じ分量が、戻ってくるわけです。
水蒸気で昇ったエネルギーが、
水というエネルギーで戻ってくる。
梅雨のように毎日、少しずつ戻してくれればいいけれど、
一気に戻そうとすると集中豪雨やゲリラ豪雨にならざるを得ないのです」
「海辺、川岸、山の暮らしは、
従来と変わってくるかもしれませんね。
のどかな環境としての安定性が
揺らいでくる可能性があります」
文系の悲しさ、この説明の精度は保障できないが、
感じとしては、こんなふうに説明してくれると、
もう少し気象がおもしろくなるだろう。
以上のことを一気に説明する時間はない、
といってはいけない。
その精神があれば、数秒でも、翻訳的説明はできる。
翻訳者は、「I love you」を
「私はあなたを愛している」と訳したのでは、
おもしろくもなんともない。
「だ~い~好き」
「仲良くしない?」
「いっしょに住まへん?」
などとやるから生きてくる。
では、健康支援者や、
食情報を発信する食情報や健康情報はどうか。
「1日2食で20歳若返る」
「玉ねぎ水で血糖値を下げる」
「トマトのリコピンはがんや動脈硬化を予防する」
などは、翻訳のし過ぎ、つまりは誤訳である。
翻訳力の足りない職種、
ムリな意訳や誤訳の多い職種、
それが現実というものだろう。
by rocky-road | 2013-09-19 23:39