宵待草はいずこに……。

b0141773_21185926.jpg



待てど暮らせど 来ぬ人は
宵待草の やるせなさ
今宵は月も 出ぬそうな


これは、竹久夢二作詞の『宵待草』の
一番の歌詞。(昭和13年)
b0141773_21225897.jpg



宵闇せまれば悩みは涯(はて)なし
みだれる心にうつるは誰(た)が影
君恋し唇あせねど
涙はあふれて今宵も更け行く

b0141773_21233840.jpg

これは、私の世代ではフランク永井の歌で聞いた
『君恋し』という歌謡曲の一番。
時雨音羽という人の作詞。(昭和3年)

これらに歌われた「宵」というコトバが
日本語から消えつつある。
b0141773_2124437.jpg

「宵」とは、「日が暮れてからまだ間もない時。
また、ゆうべと夜中の間。初夜。初更。
また、よる。夜間。」(広辞苑)のこと。
b0141773_21255232.jpg

「宵の口」とか「宵っぱり」とかという
言い方は、かつては日常会話の中に普通に存在した。
b0141773_21253156.jpg

「宵」には「日が暮れて間もない時」という意味と、
「宵っばり」のように、一晩中という意味もあるので、
時間を限定するにはあいまいなところがある。

そこでNHK(または気象庁)は、
天気予報でこの時間帯をいうときには
「夜の初めころ」と言い換えた。
昔の日本人は「宵」と「夜」「真夜中」とを
「宵」の使い方で区分してきた。
b0141773_21262882.jpg

天気予報でも「宵のうちに小雨があるかもしれません」
といえばわかると思うが、若い世代を念頭において、
正確さを期して「夜の初め」と言い換えた。
「夜の初め」とは、なんと無粋な言い方。

この結果、「マツヨイグサ」(俗称「宵待ち草」)という
植物の名前の意味はわからなくなる。
まさか「夜の初めころ草」と言い換えるわけにもいくまい。
b0141773_21265577.jpg

マツヨイグサは野生化した黄色い、
弱々しい花を咲かせる、南米あたりからの帰化植物。
「月見草」と似ているので、よく間違えられる。
両方とも、夕方、夜や月を待つかのように花が咲く。
この時間帯に媒介するムシ(蛾だともいう)を引き寄せる。
(使っている写真の花はすべてマツヨイグサにあらず)

コトバは「見れる」「寝れる」「食べれる」のように
多数決で採用されていくものだが、
「夜の初め」は、意図的な造語である。
将来、「宵」というコトバを排除した責任者を
追求する日が来たときには、
気象庁かNHKの中から
首謀者を見つけ出すことになるだろう。
b0141773_21273910.jpg

日本は四季があり、昼夜の差がはっきりしており、
方言も多様なので、気候、天候を表わすコトバが多い。
たとえば「雨」。
「朝雨」「丑雨」「梅の雨」「寒の雨」「霧雨」「時雨」
「紅梅の雨」「こぬか雨」「五月雨」「鉄砲雨」など、
あげきれないほどある。
しまいには「血の雨」が降ったりもする。

これらは誇るべき言語文化であるが、
このところ、気象用語にカタカナ語が入り込んできている。
上昇気流が固まって、熱い空気のかたまりができる。
この上昇気流域を「スーパーセル」という。
それが大きな雲、積乱雲となると、エネルギーが凝縮される。
そのエネルギーが地表に勢いよく逆流してくる
「下降噴流」のことを「ダウンバースト」という。
b0141773_21282734.jpg

わが気象用語大国も、「入道雲」なんていう
味のあるコトバを使う一方で、
「スーパーセル」や「ダウンバースト」なんていう、
アメリカ語をそのまま採用しつつある。
訳語の達人はいないのか。

気象関係者には、和製の気象用語にくわしい人が多いが、
「スーパーセル」や「ダウンバースト」を
「天熱(あまねつ)」とか「熱風滝(ねっぷうたき)」とかと
メモ用紙に、訳語の候補を50や100くらいは
書き出してみたはずなのだが。
b0141773_21285225.jpg

ここで改めて、福沢諭吉のように、
「フィロソフィー」を「哲学」、「カンパニー」を「会社」
「スピーチ」を「演説」などと訳語にした人たちの偉さがわかる。

ちなみに、「ダウンバースト」という現象は、
アメリカ国籍の日本人、
藤田哲也という学者によって発見されたという。(1973年)
着陸直前の飛行機がこの「噴流」を受けて墜落したこともある。
藤田先生はアメリカでこれを発見したので、
当然のように英語名をつけたのだろう。
b0141773_21293055.jpg

地球温暖化が始まる前の日本でも、
竜巻はあり、それが「龍」に見えたのだろう。
が、地域の家々をごっそりさらっていくほど大きなものはなかった。
平地が広いアメリカのスケールとは違う。
そのせいか、「竜巻」関連の学術用語は、英語中心になる。

雨用語があんなにも多い日本にも、
さすがに「ゲリラ豪雨」というコトバはなかった。
遠からず、
「竜巻」を「トルネード」と言い換える日が来るかもしれない。
野茂投手の復活である。
そして、「夜の初めころ」は「アーリー イブニング」に
言い換えられるかもしれない。
b0141773_212948100.jpg

と、そこで気がつく。
「宵」を「夜の初めころ」という具合に、
和語ふうに訳したことは、評価すべきかもしれない。
英語や漢語にしなかっただけでもほめてあげるべきで、
主犯者としてしょっぴくなんて、とんでもない。
b0141773_21301284.jpg

「宵」を漢語風に「初夜」と訳していたら、
困ったことになっていただろう。
天気予報で「初夜におしめりがあるでしょう」
などとやったら、放送禁止予報になっていたことだろう。
b0141773_21302556.jpg

by rocky-road | 2013-09-04 21:30  

<< 旅の宿でコーチングを学ぶ。 自分らしく、「しだら」あり!? >>