隠れ流行語辞典

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以前も、少し書いたことのある話題だが、
改めて「辞典形式」で、隠れ流行語について書いておこう。

多くの流行語は、みんなが使うので、
それが流行語であることは、少し意識すればすぐにわかる。
ところが「隠れ流行語」は、自分ではあまり使わないし、
NHKのような公共放送や新聞・雑誌がよく使うため、
正しい、または好ましい日本語のように思い込み、
それが流行語であることに気がつかない場合が多い。
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こうして、いつの間にか自分の教養の中に刷り込まれることになる。
それを使ったからといって、
笑われたり無教養と評価されたりする心配はまずないが、
長い目で見ると、言語感覚の鈍化は避けられない。

では、そのいくつかをあげておこう。
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*「……中 なか
 「桜前線が北上する中……」
 「アベノミクスが進む中……」
 などと使う。NHKニュースなどを中心に
 ひんぱんに使われる表現。
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 ニュースはこの世で起きていることを伝えるのだから
 「地球が自転する中」「みんなが生活する中」に決まっている。
 こういう表現を「見出し表現」という。
 つまり、これからの話題の見出しをつけるのである。
 かつては「桜前線が北上している……」という表現が多かった。
 「桜前線が北上しているが、青森県では桜名所の準備を始めている」
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 この場合の「が」 は、「接続助詞」で、「提示」の意味を持つ。
 「パンは日本人にとって主食であるが、それは『日本型パン食』というべきカタチである」
 これを「中」型で表現すると、
 「日本人がパンを愛好する中、それを『日本型パン食』と指摘する専門家もいる」となる。
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 この「が」 は、「きょうは暖かいが、あしたは寒い」のような「逆接」とは違う。
 この提示型の「が」を、以前は新聞がよく使った。
 逆接であれ、「並立」(勉強もできるが、スポーツも得意)であれ、
 提示であれ、「が」 は文章にある種の緊張をもたらす。 あるいは固く感じさせる。
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 テレビやラジオニュースは「です・ます体」だから、「……ですが」となるが、
 長くなったり、少しきつくなったり、発話者の立場が出過ぎたりするので、
 使いにくいところがある。
 そこで、放送記者のだれかが、「……そんな中」「……している中」と使い始め、
 どうにも止まらない状態になった。
 厳密に表現するなら「桜前線は北上を続けていて、いまは宮城県あたり。
 この前線を待ち受けるように、青森県の桜の名所○○では……」となる。
 
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 ニュース原稿を書く人間の横着さが生み出したと思われる 「……中」 は、感染する。
 すでに、他局・他メディアの記者にもすでに感染している。
 NHK発の「紋切型」(もんきりがた=ワンパターン)はとりわけ感染力が強い。
 
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*「注目を集める」
 これもNHK発の隠れ流行語。
 「『オレオレ詐欺』の手口はある程度知られるようになっている
最近は行政機関や銀行を装う手口が増えてきて注目を集めている
 「国内の内戦の影響で隣接する国には100万にも及ぶ難民が
押し寄せてきて、その動向が注目を集めている」などと使われている。
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 「集める」は他動詞。「ゴミを集める」「情報を集める」
などのように使う場合、主語が必要であり、目的語を要する。
「織田君は世界の切手を集めている
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これを「詐欺の実行者は、新しい手口で注目を集めている」と使うと、
文法的には、振込詐欺師が、新しい手口で人々の注目を
意図的に集めていることになる。集めているのは金だろ!!!
注目が集まっている」といえば、集める意図がなくても、
自然に集まってしまうことになる。
実際、「集まっている」と表現するメディアもある。
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「集める」にしろ「集まる」にしろ、
多分に推測表現であり、やや誇張がある。
「注目」は物質ではないから、ゴミや寄付金のように
数値化できない。それをどうやって「集まっている」と評価できるのか。
「集めている」という場合、
記者は、戦場や詐欺師の身近に身を置いて記事を書いていることになる。

もっといえば、「注目」とは「目を注ぐ」ことだから、
「目を注ぐ」ことを「集める」とはヘンな日本語である。
ただ、類似表現に「関心を集める」というのがあるから、
日本語として誤りとまではいえない。
しかし、「ら抜きコトバ」同様、あまり思慮のある表現とはいえない。
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*「しっかり」
おもに政治家が、ある決意を表明するとき、「しっかり」を連発する。
民主党政権のとき、目立って使われたが、
自民党の新政権にも受け継がれたようで、
政治家が発言するニュースを見ていると、民主党政権と同じくらい
「しっかり」を連発する。
コトバの癖は、政治的信条などおかまいなしに感染する事例。
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*「視野に」
一般には、「向こうから人が来ることを視野に入れてカメラを構える」
などと使うが、NHK系、その影響を受けているメディアでは、
「警察は政治資金規正法違反を視野に捜査を続けている」
「業界では、消費税が上がることを視野に『還元セール』を
考えている」などと使う。
これも「反対されるケースも念頭に置いて会議に出席する」が
「……念頭に会議に出席する」のように「置いて」 を省く表現を
すでにマスメディアが流通させているから、
視野に」も、使い込んでいれば、やがては通用するようになる、
という読み、または甘えがあるのだろう。
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以上のように、マスメディアも日本語の折り目正しさを
壊す働きをしていることを「視野に」メディアに接するようにしたい。
あっ、大変。「視野に入れてマスメディアに接するようにしたい」

by rocky-road | 2013-04-14 00:39  

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