桜を、どう撮りましたか。

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近くの公園で、
幹からぽつんと飛び出して開花しようとする
桜のつぼみを撮っていたら(上の写真)、
背後から見知らぬ男性に声をかけられた。
「アップもいいですね」と。

「枝からではなく、幹からいきなり
こんな花が咲くんですね」と私は応じた。
60歳前後に見えるその男性は、
それにはぜんぜん反応せず、
「長野県の〇〇の桜を撮ったことありますか」
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「いいえ」と答えると、彼は、そこの桜の美しさを語り始めた。
彼によると、脳こうそくで倒れて以来、
20年間、写真をやっていないという。
当時はフィルムの時代で、プリントすると高いので、
「ダイレクトプリント」をして、
その中から気に入ったものをプリントした、とか。
「それは『ベタ焼き』とか『インデックスプリント』とかというのでしょう」

どうやら写真談義をするつもりはないらしく、
写真撮影のためにあちこち出かけたことを語りたいらしい。
こちらとしては、撮影を急ぎたいし、
サクラの名所語りをするつもりもないから、
「何か所くらい出かけたんですか」
「その中でいちばん気に入っているのはどんな写真ですか」
「傑作はどのようにしたのですか」
(額に入れて飾るとか、フォトコンに出すとか)
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こういう問いかけにも乗ってこないで、
2~3か所の桜名所の話を繰り返す。
私は、彼の主治医ではないが、
まじめな旅行論や写真論に入り込むのをやめて、
思い出の地のことを聞こうとしたのだが、
写真論になったり桜論になったりで、
話題のピントが合わない。
そのうちに、仲間に呼ばれて去って行った。

ふと、昔を思い出した。
寝たきりの義祖母を診るために
毎月訪ねてくれる老巡回医がおられた。80歳を越えていた。
大の写真好きとわかって、
その後、写真(ポジフィルム)を持ってくるようになった。
私もライトテーブルを用意して待つようになった。
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そのうちに作品評を聞くのが目的となり、
義祖母の診断がないときにも、作品を持って来訪された。
祭り写真が好きで、日本に限らず、各地の祭り写真を持ってこられた。
あるとき、長崎の老花魁(おいらん)を撮った写真を評価した。
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なんともグロテスクで、これはシュール過ぎて、
「作品」というにはちょっと……
先生は、ご自分で出かけて行ったときの写真はよいけれど、
ツアーでみんなと出かけた場合は平凡になる、
みんなと同じ写真を撮っているだけでは
先生の実力は発揮できない……、
先生には被写体を見つける才能がおありなのだから。
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これ以後、先生は現われなくなった。
妻は酷評し過ぎたからだというが、
私は、先生がそんなケチな根性の人間ではないと信じている。
老齢のこと、体調を崩したのか、撮影活動のための体力が落ちたのか。
デンワで確かめればよいことだが、
それをする勇気はなかった。
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さて、桜論、桜撮影論に戻ろう。
城を入れ込む、堀を、川を、海を入れ込むなどなど
そこへ行かなければ撮れない写真がある一方で、
どこの桜でも、自分に引きつけて撮るという、
別の楽しみ方もある。
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これは、二者択一論ではなく、
どちらを選ぶにしろ、同時進行的に行なうべき撮影法である。
小田原城下の桜、松前の桜、弘前の桜、角館の桜……
を撮りに行って、花のアップしか撮らなかったらもったいないが、
それとても、一概には否定できないのが、
撮影意図というものである。
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小田原城には目がいかず、花のつぼみに関心が向いたとすれば、
それはそれでモチベーションである。(プロは別として)
「この桜、どこの?」と聞かれて、
「場所は、問題ではないの、小田原の桜はこういう表情なの」
実際にそういったら嫌われるが、
それくらい開き直れる意図があれば、
それはそれでよい。
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が、平凡だが、無難な対応法は、
①まず、そこでしか撮れない写真を撮りまくる。
②ある程度撮ってから、自分の関心を中心に、
 自分らしい作品を撮る。
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同時進行……同時に二兎どころか、十兎くらい追うところに、
写真のスリルとおもしろさ、そして、
トンボのような複眼を持つときの優越感と陶酔とがある。
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by rocky-road | 2012-04-08 23:00  

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