高い塔と、低い発想。

先日、東京に雪が降った。
すぐに頭に浮かんだのは、
雪の日の東京スカイツリーや、
その周辺を撮ることだった。
その日の仕事の優先順序を変えて、
地下鉄で「押上駅」(おしあげ)へ向かった。
写真歴60年、シャッターチャンスに向かって動き出す、
そういう習性ができあがったようである。

しかし、着いてみると、
雪はみぞれへ、さらには雨へと変わっていた。
予想はしていたが、ツリーの上半分はモヤの中。
思ったようには撮れなかった。
しかし、ツリーを中心に、時計回りに半周くらいは歩き、
街の様子を観察した。

新しいもの好きではあるが、
スカイツリーに特段の興味があるわけではなく、
街が観光地へと変貌していく様子のほうに関心がある。

空襲下の東京、米兵がジープで走る東京、
復興して近代化していく東京などを見てきた。
墨田区押上の人には悪いが、
あのあたりは終戦直後の東京が残っていて、
それと634メートルという、「世界一」電波塔との
ミスマッチに大いに興味がそそられる。

ひと息つくためにファミリーレストランに入ったら、
『日刊スポーツ』紙の号外がテーブルに置かれていた。
「東京スカイツリー完成!!」を告げるものである。
それには新名所となる施設や店が紹介してあった。

それを見ていて、信じたくないことが、現実であることを知った。
プラネタリウムはいいとして、水族館もできるという。
この話は、前にもちらっと耳にしたが、
信じたくないので、確かめなかった。

世界一の電波塔と水族館というミスマッチはいけない。
「すみだ水族館」という名称になるらしい。
記事には「魚に人に環境に優しく」とのタイトルが冠してある。
魚にやさしくしたいのなら、
こんなところに水族館を作らないでほしい。

東京にはすでに4つの水族館がある。
品川には「エプソン品川アクアスタジアム」と
「品川水族館」の2つ、
池袋には「サンシャイン国際水族館」、
葛西には「葛西臨海水族園」がある。

都内にそんなに水族館を作ってどうするのか。
しかも、空に伸びていく塔と海とはなんとも不釣り合い。

ツリーは、ハードウエアの点では、
過日の大震災という強烈なストレステストに
合格したように見えるが、
ソフトウエアのほうは、なんとも貧弱な発想。

チョウとか小鳥とかの展示施設なり、
3Dによって、スカイツリーから飛び立った空飛ぶ人が、
東京の名所を鳥瞰図で訪問するなり、
もっと空に接する要素を採り入れられたはず。
そのうえ、水族館の維持費よりもはるかに安くあがるはず。

つくづく、発想というものは、
空に向かってどんどん伸びていく、
というわけにはいかないことを改めて実感した。

これは、どの世界にもある発想の委縮。
健康支援の世界にもある。
それについては、次回に書くことにしよう。
by rocky-road | 2012-03-05 22:46