あなたは語る人? 聴く人? 読む人?
NHKラジオの「ラジオ深夜便」は、
就寝前に聞くのを楽しみにしている番組である。
午後11時20分から翌日の午前5時まで、
「アンカー」と呼ぶベテランアナウンサーが
いろいろのコーナーを夜通し進行する、
ご苦労の多い、しかしやり甲斐があるであろう番組である。
11時20分のスタート部分は、
アンカーのアドリブで、
季節の話題などを語る。
14日、バレンタインの夜のアンカーは、
バレンタインデーの日の街の様子などを語っていた。
要旨はこんな感じである。
「バレンタインデーを日本でだれが始めたか、
いまとなってはわからないが、
そんなことをだれも問わないくらい定着している。
『そういうお前はどう考えているのか』といわれたら、
去年いただいたチョコレートをまだ食べずに
(手をつけずに?)います」
公共放送で、なんとも無用な発言をするものだ、と思った。
語り口からして、バレンタインデーの風習に対して
あまり好意的ではないことがうかがわれたが、
それを決定づけたのが、「去年のチョコ」発言である。
チョコ嫌いを言いたかったのではなく、
バレンタインデーに無関心であることを
事例をもって強調したかったものと思われる。
人として、好き嫌いがあるのは自由だが、
数百万、あるいは千万台のリスナーのある公共放送で、
自分の好悪を吐露する利点がどこにあるのか、
そんなところで斜に構えた言い草に、
むしろ幼さを感じた。
かねがね、アナウンサーは「読む人」であって、
「語る人」ではないと思っているが、
だから、自分の意見を言おうとすると、
そんなミスを冒すのである。
なぜミスなのか。
こういう発言になんら実効性がないからである。
「バレンタインデー好きでない論」をぶったところで、
この風習にブレーキがかかるはずもない。
それがわかっていて言わずにおれないのは、
それで、自分の分別あるところを見せたかったのだろう。
が、その程度の軽評論で目立とうとする器の小ささが、
むしろあからさまになった。
この風習を楽しんでいる人や、
チョコレートなどを作っている菓子メーカーからは
睨まれるくらいの結果しか得られないとすれば、
それはミスといわざるを得ないだろう。
「読む人」から「語る人」になる年代のアナウンサーには、
こうした、ちょっとした危険があることを指摘しておきたい。
話変わって、健康相談を担当する健康支援者は、
「話す人」である以前に「聴く人」である。
この場合も、語りすぎるとつまずくことはある。
相手の事情も確かめることなく語りすぎると、
それはお説教になって、
いろいろのおすすめも、実践に移される可能性は小さくなる。
むずかしいのは、「聴く人」を仕事とするとする健康支援者が、
セミナーや教室で「語る人」になる場合である。
話をするための、正確で、新鮮な情報を入手するのは、
それほど簡単ではないからである。
正確な情報自体は、いろいろのデータに目を通せば、
それでも、入手困難とまではいえない。
が、その多くは、すでに情報化されていて、
鮮度が落ちていることが多い。
食材だったらどうするか。
新鮮な食材でも、毎日食べさせれば飽きられるから、
調理法を変えるだろう。炒め物が続いたら、
当然のこととして、焼いてみるか、煮てみるか、
炒め煮にしてみるか……。
情報発信も、これとまったく同じである。
健康向上のための情報も、
つねに調理法を変えて発信する必要がある。
ここでは詳細を語る余裕はないので、
もう1つの失敗例をあげておこう。
著名な大学教授で、彼の一般向けの講演は、
専門の学問のことではなく、
いまから40年ほど前の日本食のすすめである。
米、海藻、山菜、大豆など、
植物性食品をとっていたころの日本人は健康だった、
と繰り返すのである。
40年前といえば1970年、
当時の日本人の平均寿命は
男が69.31歳、女74.66歳。
死因の1位は脳血管疾患、2位はがん、3位は心疾患。
平均寿命や死因は、すべて食生活によるとはいえないが、
因果関係は大きい。
データを見ていないのか、
無視しているのか、彼はいつもいつも
「昔の日本人の食生活はよかった」と繰り返すのである。
「語る人」のプロにも大きなミスがあり、
きようも、ミスを続けているのが現実である。
by rocky-road | 2012-02-16 01:50