全国ユーモリスト健康支援者ランキング
作家の北杜夫氏が、10月24日に他界された。
享年84歳であったという。
作家として40歳のときに「躁鬱病」(そううつびょう)を発症し、
それを公表した。
あのユーモアあふれる作家のかかる病気なのかと、
当時は意外に思った。
氏が『どくとるマンボウ航海記』を発表したとき、
その文章に惹かれ、読んだり、部分的に書写したりして、
ユーモア感覚を身につけたいと思った。
この作品は1960年に発表されたもの。
私が大学を卒業した年である。
歌人・斎藤茂吉の子であり、
ドクターでもあった北杜夫氏は、
船医になってアフリカのマダガスカル島などへ出かける。
船医になった理由は、その島に興味を持っていたので、
島に上陸したら、そこから「スタコラさっさと逃げてしまおう」
という計画があったからだと、同書に書いている。
もちろん冗談だが、ホンキで書く文章のおもしろさは、
教材としては申し分なかった。
人間には眼力というものがあって、
それなりの力を持っている。
たとえば、フランスのルーブル博物館では、
みんなに見つめられる名画の表面の絵の具は
その人たちの眼力によって剥離が起こる。
とくに裸体画の剥離が著しく、下に散った絵の具の粉を
チリ取りで掃除する専門の係官を置いている……などと書く。
(原書で確かめようとしたが、本棚を何回点検しても、
見つけることができなかった)
日本には「洒落本」や「滑稽本」というジャンルがあり、
『東海道中膝栗毛』(十返舎一九)が知られるが(1802~1822年)、
明治以降は、さほどの傑作が出ていない。
夏目漱石の『坊ちゃん』もユーモア小説の1つといえるが、
日本は、ユーモア文学の盛んな国とは、とてもいえない。
1961年、筑摩書房から「世界ユーモア文学全集」全15巻が出たので、
何冊かを買って、読んで、写して、その心を学び取ろうと思った。
イタリアの作家/ジョバンニ・グァレスキの『ドン・カミロの小さな世界』や、
イギリスの作家/ジェローム・K・ジェロームの『ボートの3人』からは
とくに影響を受けた。
「ドン・カミロ」は、イタリアの寒村に住む牧師の話で、
教会の祭壇に掲げてあるキリスト像と会話ができる設定。
俗物の要素を多く持つカミロは、
牧師でありながら銃で密猟をしてキリストにとがめられたり、
共産党員である村長(幼なじみ)と殴り合いのケンカをしたりと、
事件を起こしてばかり。
僧衣の下に銃を隠して密猟に出かけようとすると、
祭壇のキリスト像に見つかってとがめられる。
キリストに言い訳をするドン・カミロ、
それをやり込めるキリスト像、
2人のやりとりが知的でなんとも楽しい。
わが才能と、諸般の事情で、
ユーモア作家にはなれなかったが、
海洋雑誌やダイビング雑誌、海の旅雑誌に25年あまり
エッセイを連載する機会を得て、
ユーモアセンスを試し、磨くことはできた。
さて、健康支援者にユーモア感覚が必要かどうか。
ユーモアは、人を馬鹿笑いさせればいい、という
ギャグやオチャラケとは違う。
穏やかなおかしみ、悲哀、人間性の真実などを含む
まさしく人間学の一滴(ひとしずく)である。
「長生きしたかったら、お酒はきっぱり辞めるべきです」
「食欲をコントロールできない人に話してもムダかな?」
……クライアントに向かって、
こんな決めつけをする健康支援者には、
ユーモア感覚のカケラもない。
こういう人にユーモアをすすめてはいけないことになっている。
ユーモアセンスのない人がユーモラスであろうとすると、
それは悲劇、惨劇以外の何ものでもないから、
厳に慎むべきである。
野暮や生真面目は、それ自体ユーモラスだから、
それなりの存在価値はある。
いつか、健康支援者を対象とした
全国ユーモリスト健康支援者ランキングを
作ってみたいと思っているが、
5人をリストアップするのに、
短く見積もっても100年はかかるだろうから、
わが一生には実現できないだろう。
by rocky-road | 2011-11-11 01:09