嵐の川を見に行って亡くなる人の人間学
先日の台風(15号)によって、わが家の近くにある、
赤羽緑道公園入り口の桜の老木が、
根本近くから裂けるように、あるいはねじ伏せられるように折れていた。
だれかが通報したのだろう、区の係が来て、
わずかな時間に、いくつかに切り分け、クレーンで引き抜き、
トラックで運んでいった。何年間の寿命なのか、
かくして、1本の桜の老木の一生は終わった。
「千の風になって」の編・訳詞者、新井 満氏が、
津波から免れ、1本だけ残った松のことを詩に詠んでいた(ラジオ深夜便)。
その詩は、松林のほかの松たち(親や兄弟たち)が、子孫を残すために、
懸命に小さな1本の木を守り、自分たちの意志を後世に託した、という設定になっていた。
赤羽緑道公園前の桜の場合は、
並木から1本だけが離れたところに立っていたために、
だれからも助けられなかった、ということなのかもしれない。
生物の生存にとって、群れることがいかに大きい意味をもつのか、
ということを改めて深く感じさせる環境異変であった。
(群れることを選ばない生物も少なくないが)
ところで、この台風でも、「川の様子を見に行った」人が
水に呑まれて亡くなった。
1回の台風で、かならずといってよいほど「川を見に行った」人が亡くなる。
なぜ、こういうことを繰り返すのか、
これを動物行動学的に考えてみた。
俗なコトバでいえば、「怖いもの見たさ」ということになるが、
もう少し根元的な行動ではないかと思う。
自然が暴れ出したとき、その様子を見ずにはいられない、
という衝動が起こるように思える。
川を見に行って亡くなるのは、行った人のすべてではない。
台風のあと、実態調査でもやればすぐにわかるだろうが、
若い人も若くない人も、風や波や激流に引き寄せられるように
見に行っているはずである。
おそらく、亡くなった人の何十倍か何百倍かの人が見に行っているはずである。
その大半は男性だろう。嵐の怖さを感じる感度は男性のほうが低いに違いない。
いずれにしろ、台風のときにも、「これは危ない!」というスイッチが入るのが一様に遅れる。
もっと見たい、もっと確かめたいという衝動のほうが大きいからである。
津波が襲ってくるときの映像を見ても、逃げる人は、
驚くほど落ちついていて、走り方は全力疾走とはほど遠い。
川の様子を見に行った人も、川に呑み込まれる瞬間は、
あのように緩慢な動きをしているように思える。
ここで、高齢者のリスクがぐんと高くなる。
逃げるタイミングを見誤ったり、そもそも危機感を感じたりする感度が、
高齢者は鈍くなっているのかもしれない。
横断歩道のない車道を、ゆっくりと渡っていく高齢者を見ていると、
危機感の感度も、やはり落ちるように思う。
その年まで、何十回となく耳にしてきたはずの
「川の様子を見に行った人が亡くなった」というニュースも、
彼の行動に、ほとんどブレーキをかけていないようである。
それはつまり、理性では抑えきれない衝動が起こるのではないか。
都会で生活している者には想像しにくい状況だろう。
家には海や川を渡ってきた風や水しぶきがビシビシと当たる。
隣家はなく、いざとなれば、だれかに助けてもらうという心の支えもない。
そんなところに、玄関先に得体の知れぬ者が立って、ドアを乱暴に叩いている。
ドアを蹴破られかもしれない、風が家の中を通り抜けるかもしれない、
男として、こんな状況下にあって、見て見ぬ振りはできない。
「そこまでいうなら、出ててやろうじゃねぇか!!」
このあたりから、男は雄に変わる。
恐怖は攻撃性に変わり、「ちょっと様子を見に行ってくる」となる。
人間行動を見るとき、社会化された人間の面だけを見ていても、
人間を知ることはできない。
ヒトもしくはホモサピエンスの部分をも洞察しないと、人間はよく見えない。
肥満比率が男性では上昇を続け、女性では横ばいや下降気味という現象も、
人間だけを見ていては、それ以上の洞察はできない。
健康支援者にも人間学が必要と思う一例である。
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いつもにも増して、人間学づいているように思う。
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by rocky-road | 2011-09-25 01:47