自分の頭で、もうちょっと考える習慣。

自分の頭で、もうちょっと考える習慣。_b0141773_2363351.jpg

以前、フードコーディネーターを目指すスクール生たち(大半は社会人)に、
こんな宿題を出したことがある。
「気に入っている飲食店1店を選び、
よいところを評価し、今後のさらなる発展を願って
改善点を示しなさい」

文章量は800字。
ところが、大半の学生は、その店の利点や気に入っている点をあげるのに熱心で、
改善点に使うスペースは1~2割程度。
改善点の中には、「分煙ができていない」といった
当時としては、なかなかの着眼のものがあったが、
多くは「いつも混んでいて落ち着けない」
「京都に本店があるが、最近東京に支店を出したのは残念」といったもので、
まるで繁盛してはいけないような指摘が少なからずあって苦笑した。
自分の頭で、もうちょっと考える習慣。_b0141773_238316.jpg

なぜこういうテーマの課題をしたかというと、
将来、自分が経営者になる可能性を想定し、
アイディアを引き出すトレーニングをしたいと考えたからである。
現状への批判、改善への提言、平たくいえば「ないものねだり」は、
クリエートの第一段階になることが多い。
現状に満足していては、新しいものは生まれにくい。

この考えは、いまも同じで、ロッコム文章・編集塾でも、
この種の課題はしばしばしている。
自分の頭で、もうちょっと考える習慣。_b0141773_2382539.jpg

最近では、ある新聞に載った、科学部次長によるコラムの文章。
「ランニングと心の健康」について論じたものだが、
マラソンが好きで、いきなり42.195kmを走って下痢や発熱を起こし、
以後、懲りもせず、同じことを繰り返す。
2人の専門家にランニングは健康や長寿にプラスになるか、
などと、とってつけたような取材をしているが、
この筆者には根本のところに健康効果とフルマラソンを直結させる
超短絡思考があるために、どう論じてみても健康論にはならない。
自分でもヤキモキしてきたのか、
「空の青さや雲の白さが実感できる」などという実践者の声を引用して
お茶を濁している。

この宿題に対する塾生の反応は、やはり寛容で、
要約のほうにスペースがとられ、論評は押せ押せになってしまう。
よく指摘することなのだが、
論じようという気合いが弱かっり、
論点の準備性が弱いと、前置きとなる要約部分が必要以上に長くなる。
自分の頭で、もうちょっと考える習慣。_b0141773_2394410.jpg

なぜこうなるのか、それは文章力以前の問題といってよい。
日本人の穏和さ、批判嫌いによるところが多い。
論評や批判を「悪口」などと表現するように、
あまり道徳的でないように感ずる文化がある。

その限りにおいてはうるわしいが、その副作用として、
論理性が鈍る、という問題がある。
無風状態を「よし」としてしまうことは、不適切な情報を野放しにすることに通じる。
自分の頭で、もうちょっと考える習慣。_b0141773_2321436.jpg

そういっているそばから、食生活誌が送られてきて、
その特集は「長寿の食習慣」だった。
その習慣には8つあるそうで、それは以下のとおり。

1、体力づくり体温づくりのたんぱく質食品をとる
2、たんぱく質といっしょに野菜をたっぷりとる
3、米・パン・めんを一日3食
4、BMI 19以上を目標に、できれば一日1600kcal
5、骨を意識してカルシウム、マグネシウム、ビタミンD・Kをとる
6、塩分・油脂・砂糖をとりすぎない
7、サプリメントに頼らない
8、脱水状態にならないよう水分をたっぷりとる
自分の頭で、もうちょっと考える習慣。_b0141773_23111867.jpg

「食習慣」といいながら、その大半は栄養素か食品の摂取基準(量はアバウトだが)である。
四群点数法で説明すれば、1、2、3、4、5、6は、1つの項目ですんでしまう。
情報提供者となった人物は四群点数法を知らず、
編集部までもが四群点数法を忘れてしまっているらしく、
わざわざ分解して、8つの項目の8割弱にまでばらまいた感じ。

この程度の食習慣で「長寿」が実現できると、ホンキで考えているのだろうか。
食事の習慣だけをとっても、
たとえば、1日に何をどれだけ食べるかという物差しを持つこと、
定刻に食事をとる習慣、メニュー構成のあり方(一汁三菜)、
少なくとも20分以上をかけて食事をとる習慣、飲酒習慣のあり方、
家族や知人と談笑しながら食事をする習慣、
定刻の排便習慣、外食や中食を楽しむ習慣、
調理を楽しむ習慣……。
(生活習慣だってゴマンとあるぞ!!)
自分の頭で、もうちょっと考える習慣。_b0141773_23131994.jpg

ニュートンがゆで卵を作るつもりで時計(懐中)をゆでた、
というエピソードがあるように、
1つのことに夢中になると、ほかのものが見えなくなる。
「栄養」の効果を謳う者は、
長寿や健康は、栄養素の充足だけで実現できるかのように思ってしまう。

人は、情報も食べている(モチベーション、生きがい)、
人間関係によって生かされている……、
そういうことがわからなくなっている専門家や専門誌は、
時代をリードすることなどできない。
自分の頭で、もうちょっと考える習慣。_b0141773_23124282.jpg

この文章は、専門誌への悪口が目的ではない。
このプログを読んでいる人は、いつの間にか、
一部の専門家や専門誌のレベルを追い越してしまっていることを自覚してほしい。
知識が、というよりも、センスが、思考力が、バランス感覚が、
不勉強の専門家のレベルをだいぶ超えてしまった、ということを。

「専門バカ」は、視野狭窄や歩行停止という副作用があるから、
その間に、数歩先に出てしまったのである。
自分の頭で、もうちょっと考える習慣。_b0141773_23141740.jpg

ほんとうは、あなたこそ、情報提供者になるべきなのだが、
さて、それを人々に正確に伝える発話力、文章力の準備はよろしいか。

by rocky-road | 2011-08-13 23:14  

<< ミイラ取りとオオカミ少年 松下村塾とロッコム文章・編集塾 >>