コトバは、健康支援者をもダメにする。

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『読売新聞』の朝刊に毎日載っている「編集手帳」の6月30日付で
新聞記事によくある紋切り型表現を例に引いている。

いわく「駆け出しの頃、陳腐な表現は使うなと、先輩記者に教えられた。
宿舎の甲子園球児は『底抜けの笑顔』で食事を『ペロリとたいらげ』てはならず、
景気のいい商店主は『えびす顔でうれしい悲鳴』を上げてはいけない、と。
さすがにもう、その種の失敗はしないが、『歯の根も合わぬ』寒さや
『めまいのする』空腹は、いまも油断すると顔を出す」
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編集手帳氏のいわんとするところは、
『被災地のこども80人の作文集』に収載されている文章には、
そういう陳腐表現は見あたらない、という点である。

しばしばこのプログページでも指摘しているが、
マスメディアは、陳腐表現および流行語、流行思想の製造システムでもあるので、
これにブレーキをかけることなンぞ、絶対にできない。
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現在、乱造されつつある語句としては、
「この政権の成り行きは不透明」「この夏の電力需要は不透明」であり、
「福島原発事故が収束を見ない中……」「都市計画の骨子が固まらない中……」であり、
「この国際会議が注目を集めている」「この伝統的な夏祭りに注目が集まっている」であり、
この夏の電気不足を視野に対策を考えている」「中国艦船の活発な動きを視野に……」である。

司馬遼太郎氏が指摘したように、明治政府による「統一日本語」の策定によって、
日本人は共通の文章表現力を持つに至ったが、
それは同時に、うんざりするほどの紋切り型表現を共有することにもなることをも意味する。
NHKの一部の記者が何回かニュース原稿を書くと、局内はもちろん、
民放にまで伝染して、「不透明な」「……中」、「注目を集め」、
反発を「視野に入れる」ことなく、乱発することになる。
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すでに私のまわりには「……の中」に感染し、発症した人が何人か見つかっている。
コトバには感性や思想が伴うから、当然、感じ方も考え方も類型的になる。
「……の中」を連発する人は、ていねいな観察や思考を省いて、
強引に、あいまいな表現にホカシをかけようとしているのである。

最近、埼玉県で発見された感染症は、感覚や思考までが冒されていて、
しかも本人に自覚症状がまったくないという、絶望的な重症であった。
聞くところによると、ある大学共催の「オリジナルお勧めレシピコンテスト」に
応募した「鶏もも肉とレッドキドニービーンズの煮こみ」(赤い料理)という作品が
優秀賞をとったそうだが、
審査に当たった栄養士のコメントが、「緑も入ったほうがよかった」だと。
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これは、「ハヤシライスは黄色いといい」「カレーライスは茶色だといい」
といっているようなもので、ないものねだりの最たるもの。
卑劣なのは、1位に採っておいて難癖をつける、
人間として最下等な振る舞いである。

ここまでくると、言語表現の域を超えて、人間性の崩壊である。
とはいえ、これも元はといえば、
「栄養指導」という危険なコトバがもたらした悪性の感染症である。
「指導」というコトバが、人に対する関心や興味、温かさを奪うのである。
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そう考えると、「特定保健指導」というコトバを採用した人間の思慮の浅さ、軽薄さ、
罪の深さが改めて実感される。
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コトバは、ただの音声ではない。
全人格が反映される。「コトバの上だけ」などと、軽く考えてはいけない。
「指導」や「行動変容」、「患者様」「いわゆる」「……中」を頻発する人間や、
「私って女じゃないですかァ」 「私ィ きのォ 雨に降られてェ 新宿の? 駅の?」
なんていう表現をヘーキで使う人間に近づくときは、マスクではなく、
耳栓を当てるくらいの覚悟が必要。
思っている以上の感染力が強いし、
聞いているだけでアホになる危険性があるのだから。
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by rocky-road | 2011-07-01 23:51  

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