栄養士とユニクロ
ユニクロが進出するという。
デパート側は集客のための相乗効果だと歓迎のコメント。
経営が苦しくなったデパートが、人気ブランドを誘い込むというパターンは、
完全に定番になった。
これは、デパートの時代が終わるまでの1プロセスだろう。
人気店の誘い込みは、心臓にペースメーカーを入れるようなもので、
デパート本体の回復はむずかしい。
企画や商品開発といった、ビジネスを拍動させる基礎能力を失った以上、
その組織体は、外科的に延命治療をする以外に道はない。
こういうことは、デパート以外でも起こっている。
先日、テレビで料理番組を見ていたら、
管理栄養士が日常的な料理を作りながら、
にこやかに「じゃが芋はビタミンCがあって……」と、
しきりに栄養効果を説いていた。
この図式は、デパートが自己商品を開発もせず、
いつまでも古くさいデザインのあれこれを、
昔と変わらぬセールス方法で商売を続けているのとぴったり符合する。
毎日食べる普通の料理を、いちいちビタミン含有率で説明しないと
おすすめできない……と、ディレクターが思い過ごして、
栄養士にそう言わせるのである。
そのディレクターは、料理などしたことがなく、
料理は栄養素を強調しないとアピールしないと一人合点している。
栄養士も、なんだかわからないままに、
台本どおりにその料理を説明する。
食材の魅力、調理のおもしろさを言語化できない者のシナリオでは、
こうならざるを得ない。
たぶんデパートでも、仕入れの担当者が
「そろそろ春・夏物シーズンだから、麻と綿の混紡のシャツを50着」なんて
慣習どおりに業者に発注しているのだろう。
彼には、シャツを楽しむ生活もないし、休日をめいっぱい楽しむ心のゆとりもなく、
自分と同じ世代、その前後の世代の消費動向にも関心がうすい。
ただ、先輩たちから教わったやり方を踏襲してきたことだろう。
従来の手法を踏襲する栄養士もまた、
商品開発に行き詰まるとユニクロに助けを求める。
栄養士界のユニクロは、アンチエージングであり、
酵素食であり、分子栄養学であり、粗食のすすめであり……。
ペースメーカーは、外国由来のもののほうが効果がある、
などと考える、その発想法自体が、
明治維新以来の外科的延命法である。
栄養士の世界にも閉店間際のデパートが
けっこう多いのではないか。
by rocky-road | 2010-04-25 07:26