願わくは花の下にて春死なん……

花の季節である。
開花の時季になると、夜桜見物のために
場所取り係が活躍するようになる。
昼のうちに、場合によっては朝から、
仲間のために花の下にシートを敷き、
からだを平らにしてくつろぎを表現し、
その実、陣地を侵略されないように
沿岸警備隊の緊張感をもって事に当たる。
アメリカの心理学の実験報告に、
図書館の空席に場所取りのために置いたモノによって、
その場所が乗っ取られる時間が異なる、というものがあった。
雑誌は1時間足らず、ブックエンドでくくった教科書の場合はそれより長く、
カーディガンでは1日中、空席が保たれたという。

これを参考にすれば、場所取りに使うシートは、
ブルーよりも赤か黄色、ひょっとしたらド・ピンクなんかが
いいかもしれない。
そしてもちろん、場所取り主の名を大書する。
「鳩山新撰組」「小沢組黒幕組戦略局上野支部」
「モナコ共和国日本大使館」

日々の衣服もまた、生活環境における場所取りのようなものである。
家庭、買い物、職場、ランニング、デート……、
その場にふさわしい場所を取った者が、しかるべき花見を楽しめる。

さらにまた、資格も人生における場所取りである。
もっとも、せっかく場所を取って置きながら、
期待したほど宴会が盛りあがらないこともある。
いや盛りあげられないことがある。
夜桜に花冷えは付き物。なんか、しらーっとして日々を過ごす。
「みんなが場所取りに熱中するので、アタシもなんとなく取っただけ」
こういうのを「花冷え資格」という。

けっきょく、花見は、シートの大きさや色ではなく、
その上に集う人たちの楽しみ方で決まる。
つまり、大事なのは記号ではなく、
その人たち、つまり実体のほうであろう。
by rocky-road | 2010-03-17 10:55