問いかけ鏡を持つ人

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 NHKテレビの「SONGS」に矢沢永吉氏が出演した。
 ロックファンでもないし、もともとテレビ出演を避けてきた人らしいので、
 私にはなじみの薄い歌手である。
 番組の中で、観客からの質問に答えるコーナーがあった。
 20代の女性が、やや突っ張って生きてきたが(永ちゃんのように)、
 最近は、それでどうする、だからなんだという迷いが生じた、
 これから先、どう燃えたらよいのか(要約)と問いかけた。
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 さあ、どう応じるか、注目していたら、
 永ちゃんは、その女性に問いかけた。
 「入社したときには張り切っていたのでしょ?」
 「ハイ」

 即答をしなかった永ちゃんに、「おぬし、できるな!!」を感じた。
 彼は、問いかけの軽いジャブを当てておいて、
 それから、おもむろに自分のことを語り出す。
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 人生も、1週間も、ずっとハッピーであるわけはない。
 自分も、ずっと歌ってきて、これしかできないのか、って自分に思った。
 が、50代を過ぎて、人間はそんなに器用ではないことを悟った。
 1週間、ずっとアンハッピーであっても、土曜日に突然、いいことがある、
 そういうことじゃないか……(要約)

 質問した女性の目に涙がにじんだ。
 著名人にありがちな、経験則を振り回すだけの、
 思い上がった得意顔ではない永ちゃんに、彼女は共感した。
 最初の短い問いかけで、彼女の心をつかんだ。
 そして、しっかりと彼女の質問に答えた。
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 パルマローザのセミナーで、以下のようなことを話した。
 食事相談で、「食べたいものをがまんしてまで
 長生きをしたいと思わない」というクライアントに出会うはずだ。
 こんなとき、「そんなことを言っちゃあダメですよ」と、
 押さえにかからないほうがよい場合もある。
 平然と同意して見せて、
 「そうですか。で、何歳で亡くなることになりそうですか」
 「もちろん保険には入っていらっしゃるのですね?」

 これを自分の食事相談のときに、やっちまった人がいる。
 問いかけとしては鋭いから、取り扱い注意なのだが、
 もう使ってしまったという。怪我はなかったか、大いに案じた。
 が、そのフレーズにまで持っていく手順がよかったのだろう、
 相手は、素直に応じ、自分の死亡推定年齢を70歳だといったとか。
 平均寿命のデータなどを示すと、
 70歳では若すぎることに気がついたという。
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 栄養士は、延命治療(?)にも貢献できることを証明する事例であろう。
 寿命の目標値をあげることは(しかも自発的に!!!)、
 健康寿命のレベルをあげる第1歩である。
 そして、「適切な」問いかけコミュニケーションは、
 人と人との距離を縮めたり、相手のモチベーションを高めたりする、
 伝家の宝刀的なコミュニケーションスキルである。

 「短命でもよい」という意見を否定するのは人道的である。
 が、その否定をいいことに、甘えたり悪ぶったりする人間もいる。
 そうやって甘えて生きてきたがゆえに、ますます余命を減らしてきた。
 この場合、否定は結果的に当人の寿命を縮める効果をあげる。

 そこで、こう問いかける。
 「そういうからには、何歳くらいで死ぬというイメージがおありで?」
 ここで、相手をリアルな世界に引き戻す。
 永ちゃんは聞いた。「入社当時は燃えていたんでしょ?」
 彼女は、自分にも輝いていた時代があったことに気づく。

 問いかけには、危険物も多いが、スムースな、
 スムースを装うコミュニケーションに「待った!」をかける効果もある。
 冷静な思考のきっかけを与える場合もある。

 昔、専売公社は「タバコは暮らしの句読点」というフレーズを
 コマーシャルに使った。
 そこで、名食事相談担当者にもコマーシャルを。
 「食事相談担当者は、希望を映し出す、問いかけ鏡を持つ心の美容師」

 再度いうが、「問いかけ」にも、キレル問いかけと、ダサイ問いかけがある。
 問いかけは万能ではない。
 適切な問いかけだけが、〝ときに〟心を映し出す。

by rocky-road | 2009-08-06 23:48  

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