流行語大傷

毎年行なわれている「流行語大賞」の選定と授賞は、
国民の言語感覚を磨くうえで、大きな貢献をしている。
同時に、流行の流行たるゆえん(一過性)を再認識させることでも
貢献するところが大きい。
が、現実には、流行語らしくない流行語というものもある。
NHKが大好きな「立件を視野に捜査を進めている」
「注目を集めている」「成り行き不透明」、
「警察官が駆けつける」なども、
やや長めの流行表現である。
観察していたら、すぐに民放にも伝染して、
最近は民放の取材記者たちも頻発するようになった。

マスメディアが自作の流行語を使う場合、
一見、正当な表現のように見えるから、
潜伏的に蔓延することが多い。
かつては、「言ってみれば」が大流行したし、
もっと遡ると、「突然の事故に近所の人は目をこすりこすり」というのがあった。
さらに遡れば、「紅蓮(ぐれん)の炎はあたり一体をなめ尽くし……」という、
火事の記事の定番があった。
記者は、短い時間に記事を書かなければならないから、
つい、だれかの使い古しに飛びつく。一種の思考停止状態である。
「立件を視野に」とまで言ったのなら「(視野に)入れて」を省くな。
「注目」はわざわざ集めなくたって、「注目されている」で充分。
「成り行き不透明」って、別に壁があるわけではなし、
未来を見通せなくて、それでもプロか。
未来は視覚で見るものではなく、知恵で見るものと、昔から相場が決まっている。
予測能力が及ばないときは、視覚(不透明)のせいにしないで、
素直に「予測しにくい」「予測不能」と言いなさい。
ちなみに、ひと昔前には「予断を許さない」がはやった。

それにしても、警察官が〝駆けつける〟姿とか、
夜中に近所で事件があったとき、
〝目をこすりこす〟家から出てくる人を見かける確率は、どの程度のものだろう。
少なくとも、記者は絶対に見てはいないはずである。
以前、北海道だったか、お巡りさんが太っていては容疑者をつかまえられないと、
ウエートコントロール命令が出た、との新聞記事を読んだが……。
健康支援の世界にも、ちゃんと流行語はあって、
このブログでも、それとなく話題にした。
それはつまり、
「食の欧米化」「生活習慣病の急増」「自給率が世界でもまれなほど低い」
「粗食のすすめ」「食の安心・安全」などである。
流行語のご他聞にもれず、これらの表現の真偽のほどは定かでない。
気になるのは、健康支援界の流行語は、
はやりの期間が長すぎるということ。
「食の欧米化」なんて、もう30年も流行している。
30年もはやっていて、流行語っていえるか。
それはたぶん、この世界の時間が
ゆったりと流れているからだろう。
それはネズミの時間ではなく、ゾウかクジラの時間なのかもしれない。
無風状態は、進歩が遅いアカシなのかもしれない。
by rocky-road | 2009-02-14 00:24