新年会の幹事をお願いできますか。
『「IT断食」のすすめ』という本のタイトルに興味をもって
読んでみた。(遠藤 功・山本孝昭著
日本経済新聞社出版部発行、日経プレミアシリーズ)
かねがね、IT( Information Technology=情報技術)、
言い換えればデジタルコミュニケーションへの過度の依存が、
動物的、あるいは人間としての感性や思考を鈍らせる可能性、
心身の健康維持のリスクとなる可能性を懸念していたが、
ようやくIT関連の会社の経営者自身が
そのことを指摘するようになったのかと、興味をそそられた。
共著者の1人、山本氏は、IT企業の社長だという。
その人が、ITへの過度の依存について
「IT中毒」「依存症」というコトバを使って警告している。
おもしろいのは、「物心ついたときに身近にITがあった世代」を
「草食世代」と位置づけており、この世代から「IT依存症」が
顕著になってきているという指摘である。
そういうものかもしれないが、
私の観察するところでは、性や世代、年齢に関係なく、
ある条件(パソコンと向き合う時間の量や、
その人のライフスタイル)がそろえば、
「IT依存症」は、どこでも、だれにでも起こりうる。
依存症というものは、そういうものであろう。
IT症状の1つとして、こんな症状が紹介されている。
仲間との飲み会の幹事になったとき、
自分の目や口で確かめた店ではなく、
インターネットで調べた、初めて行く店を会場に選ぶ人が多いという。
ある会社の上役の証言として、こんな話を紹介している。
「ネットのレストラン情報サイトの口コミ情報を見て、
評価が高かったところにする人が圧倒的に多いですね。
それで必ず『私は行ったことがないので、本当にいいかどうか
分からないんですが』と付け加える。
そこを選んだ自分の責任をあいまいにして、
あらかじめレストラン情報サイトに責任を負わせているんでしょうね」
これがIT依存症の症状の1つだとすれば、
私のまわりにも、発症している人がいるかもしれない。
たとえば、電話で問い合わせれば1分ですむことを
わざわざEメールで尋ねてくる。
こちらも、その返事に数10分をかけざるを得ない。
会食をする場所に向かって連れだって駅前通りを歩いていると、
幹事役が立ち止まって地図を見始める。
「おやっ?」と思ったら、インターネットで調べた店なので
迷ってしまったという。
こんなケースでは、
私だったら、自分で行ったことのある店を選ぶか、
事前に調べに行って試食してみる。
昔は来意を告げると店側の態度がよくなったり、
場合によっては代金を無料にするなどという、
幹事にとっての役得もあった。
そういう体験を通じて店選びの鑑定力をつけてきた。
幹事に引率される人にとっても、
紹介者への信頼感や親近感が料理の味の一部となり、
その体験を、またほかの人へと伝える。
インターネットで見つけた店には、
どうも愛着がわかない。
さて、この本でいう「依存症」の問題点は
人間性の喪失とか、健康上のリスクといったことではない。
会社員として、あまりよい仕事ができていない、
ということが問題であるらしい。
大して役立たない会議の資料に時間と労力を使い過ぎる、
同僚とのコミュニケーションに積極性がない、
対面交渉が不得手で営業成績が落ちてくる、
仕事をしている振りをしてサボる……。
つまりこの本は、ビジネスの本なのである。
依存症とか中毒とかのコトバを使ってはいるが、
真の意味の病気や健康とは関係なく、
より効率のよい社員行動をとるにはどうするのがよいのかを
ヒラ社員や経営陣に気づかせるのが目的のようである。
いずれは、精神科医や心理学者、または脳学者が
健康論としての「IT依存症論」を書くことになるだろう。
門外漢ながら、動物行動学的に見ると、
デジタルコミュニケーション依存は、
動物のコミュニケーション力、および人間の思考を
単調にするところにこそ問題があるのだろう。
依存症は、あることに依存することが原因や症状なのではなく、
いろいろのことに五感や頭を使わない、
あるいは使えない生活習慣にこそ病因がある。
本来もっている多様な感性や思考力を十二分に使うきっかけがなく、
それゆえに単一な事物に集中し、依存するのである。
道や駅のホームを歩きながらケイタイを操っている姿を見ると、
私には依存症の症状そのものに見える。
道の周辺、街や村の風景、通り過ぎる人々、乗り物、
それらにまったく関心を示さない行動は、
動物としての感覚を放棄して、迷走している姿である。
そんな人間に「安心・安全」などという権利はない。
自分の周囲に外敵がいないか、
自分の周囲にびっくりするくらいのエサはないか、
五感のレーダーを全開にして歩くのが動物である。
自分が動物であることを忘れた人間は、
思考力を失った人間以外の何者でもない。
ITを恐れることはないし、敵視する必要もない(この本のように)。
このブログを読んだあと、コタツに入ってみかんでも食べるとか、
「そうだ、ここはココアでしょう」といって、
ミルクパンに牛乳を注ぐとか、
そういった、普通の動物行動をとっていれば、
動物らしく、人間らしく生きていけることだろう。
by rocky-road | 2011-12-28 01:23